司法試験合格を目指す公務員くんのブログ

司法試験合格を目指す現役公務員のブログです。

令和3年司法試験 総括

司法試験の分析会を受講したので、改めて自分の答案の感想を書きます。

視聴したのは、BEXAと辰巳の分析会で、伊藤塾は模範答案だけ読んだ。労働法は、加藤先生の講義を視聴した。解答筋はどこもほぼ同じだったので、およその正解筋は把握したつもり。

 

①労働法

 第1問は、(3)で整理解雇を落としてしまった。これは、大失敗。普通に考えれば分かるのに、うっかりミスで落とすのが一番悔しい。冷静に考えれば整理解雇で、なにも難しい話ではなかった。論証もかけなかったので、(3)はかなり痛い。

 第2問は、加藤先生の解答では、争議行為と組合活動を分けて論じていた。ここは、現場でも迷ったが、組合活動も書いていたら、紙面と時間が足りなくて、ぐちゃぐちゃの答案になっていたと思うので、投稿行為も争議行為に含めて論じたのは、答案作戦上、間違いではないと思う。但し、労組法7条のあてはめをせず、労契法15条一本で書いてしまったのは、やはり痛い。これがどれだけ減点になるかわからないが、凡ミスなので悔しい。

 労働法は、そこまで難しくなかったのに、単純なミスを連発してしまったのが悔しい。全科目中で一番悔しいのが、労働法。

 

憲法

 これはもう良くわからん。再現答案も憲法が一番再現率が低いし、はっきり言って何を書いたのか、よく覚えていない。問題文の事情は頑張って拾ったと思うので、Bがつけば嬉しい。唯一の後悔としては規制①と規制②両方とも中間審査基準にしてしまったこと。規制①は違憲にするのだから、厳格な審査基準にすれば良かった。まあ、憲法はみんなできてないから、大丈夫と思うことにする。ちなみに、規制②の根拠条文は、BEXAの伊藤たける先生は結社の自由(21条)、辰巳では13条だった。自分は、消極的自由で書いてしまったが、たしか、消極的自由と結社の自由も付け足しで書いたと思うので、ここはセーフかな。

 

行政法

 受験生の中では、一番難しいとされたのが行政法。でも、自分的には結構書けたと思う。設問1(1)は、申請に引き付けて書けなかったのが失敗だった。たしかに、誘導文があったのだが、解いている最中は申請について何を書けばいいのか分からず、通常の処分性の論述で勝負してしまった。設問1(2)はそれなりに書けたと思うし、設問2も、誘導に乗って、最後の手続きの違反まで書ききった。行政法はAの自信がある。

 

民法

 設問1は、請求1は書けたが、請求2は論証を間違えた。自分が書いたのは194条の事例の論証だった。でも、少しは評価してくれるのではないか。設問2は(1)で準委任を書けたが、(2)は完全に外した。確かに、委任なら、委任の解除の話を書けばいいものの、そこに行きつかなかった。言われれば確かにそうか、と思うが、本番では、そんなことは全く思い浮かばず、債務不履行責任を書いてしまった。他の人は、みんな委任の解除の話は書けたのだろうか。受験生のレベルが気になる。これにみんな気づけるようなら、今年は不合格だな。

設問3は、まあまあ書けた方ではないか。ただ、時間がなかったので、かなり雑な記述になっているのは否めない。

 

⑤商法

 全体的に悪くないと思う。設問1は、利益相反と多額の借財は書けたし、設問3の代理の話も書けた。設問2は適当に規範をでっち上げて、事実を頑張って拾った。これは、みんなも同じだと思う。設問3のFの議決権行使は、難しすぎて自分の実力では解けない。

 

⑥民訴

 一番簡単と評されたのが、民訴だったが、自分はめちゃくちゃ難しかった。設問1の課題1で既判力を書いてしまったのは、大失敗。誘導に上手く乗っかれず、処分権主義の話は書かなくていいのかと勘違いしてしまった。この誘導分かりづれーよ。ただ、再現答案の感想でも書いたが、既判力ともう一つ、論点を書いたので、たしかそれが処分権主義の話を書いたのだと思う。というか思いたい。そうすれば、一応、点は入ってくると思う。もっとも、メインは既判力を書いたので、内容は超薄いので他の人と完全に書き負けている。

課題2以降は、正解筋を書けたと思う。特に設問2は自信がある。設問3も大丈夫なはず。ただ、みんなが簡単と思っているということは、やっぱりみんな書けているんだよね。民訴は失敗。

 

⑦刑法

 やってしまいました。強盗マンです。確かに、問題文読んでる最中に、これで、強盗はおかしいとは思ったが、強盗が成立しなければ、その先に進めないから強盗は既遂にしなければと思い込んでしまった。窃盗なんて頭の片隅にも思い浮かばなかった。この事案で窃盗を持ってくのってかなり難しいと思うのだが、他の受験生はかけたのだろうか。やっちまったけど、自分の実力的に窃盗はどう考えても窃盗なんて書けなかったので、しょうがないと言えばしょうがない。

でも、強盗はなんで成立しないのか、未だ良くわからない。どこの要件で切れるのかがいまいちピントきてない。判例だと、犯行抑圧と強取の因果関係は不要だし、脅迫も一般人の見地から見れば、強盗に当たるのではないかと、今でも思っている。故意で切るのかな。

あと、背任。ネットで色んな意見、解答を見たが、背任は皆無だったので、違うんだろうね。自分的には背任罪も成立すると思うが、これはダメなのかな?横領を否定したら、背任という、いつもの流れを意識しすぎてしまったのが失敗。

 設問2は、普通に書けたので、ここは点数が入ると思う。みんな失敗していることを願って、Bがつけば嬉しい。刑法は失敗だった。

 

⑧刑訴

 刑訴は普通にできました。でも、これは簡単だから、合格する人は全員書けるはず。合否は当てはめがどれだけできたかでしょう。あてはめも頑張って書いたつもりだが、自分の答案でどれだけの評価がつくのか気になる。

 

以上、全体の感想としては、実力は出し切れたかなという感じ。書けなかった論点は、単に自分の実力不足なので、それはしょうがない。時間配分のミスや、読み間違い、大失敗は無かった。ミスは多少なりともしたけど、それも実力のうち。

途中答案は1枚もなかった。枚数は、刑法は8枚、刑訴は7枚、残りの科目も6枚書いた。(憲法はもしかしたら5枚)労働法も2問とも答案用紙ギリギリに目一杯書いた。論点はどう少なく見積もって半分以上はかけている。

 そうすると、短答合格者の半分以上は合格するだろうから、自分がその中に入っている可能性はゼロではないのでは。もっとも、合格の自信があるかと言われれば、全然ない。短答は128点と平均レベルだし、何といっても、周りがどれだけ書けているか全く分からないので、本当に分からない。周りに受験仲間がいないとこういう時に辛い。

 合格を確信できるレベルには到底達していないので、合格発表まで当然勉強は続ける。本番も終わったし、本当に気楽に勉強できる。そして、もしかしたら、この長かった受験生活3か月後には終わっているかもしれないと考えるだけで嬉しくてたまらない。

 

残り3か月の計画は以下の通り

 

①憲・民・刑の短答過去問パーフェクトを一周する。

正直、短答128点というのはかなりショック。短答は余裕で140点ぐらいとれるよう、基礎からやり直す

②土日に一通ずつ起案 過去問の起案を進める

 起案する力が落ちないよう、土日は朝から自習室に行き、過去問を起案する。結局、司法試験の過去問は過去3年しかできなかったので、やる問題は山ほどある。

③過去問の答案構成

 伊藤塾で過去問マスターを全年度購入したが、さすがに全問題は起案できないので、2012年以前のものは答案構成にする。これでもかなりの量だけど、やはり、過去問の勉強が一番有益なので、過去問中心の勉強にする。これは、平日の朝の勉強にあたる

④メルカリで購入した最強論証集を全科目通読する

 これで、論証の作成は終わりにする。現在、自分が作った論証・定義は2100個ほど。正直これ以上広げる必要性はない。

⑤Ankiを使った1問1答を一日最低50問 

 論証を忘れないように、必ず記憶の時間を作る。

 

以上の勉強を合格発表までやる。どうせ全部できないけど、宣言して自分を追い込む。

社会人なので、試験前と生活は変わらないので、勉強を続けやすい環境にはあると思う。

 

 

 

 

 

 

令和3年司法試験再現答案 刑事訴訟法

設問1

下線部①差し押さえについて

1 差押えは「証拠物…と思料するもの」(刑事訴訟法(以下省略)222条1項, 99条1項)について認められる。具体的には、①令状に明示された物件で②被疑事実との関連性を有する物である。

2(1)名刺は、差し押さえるべき物として、令状に記載されている(①)

 (2)逮捕された甲は、本件強盗は乙に指示され、乙の背後には指定暴力団である丙組がいて、乙はその幹部に、犯行で得た金の一部を貢いでいると供述した。甲の供述は具体的で信ぴょう性が高いので、本件の強盗事件に丙組が関与している可能性は高い。そして、本件のような、高齢者を狙った強盗は、組織的な犯罪集団に行われることが多いので、暴力団丙組の関与が疑われる。よって、同じく犯罪に関与したと疑われる乙が借りている部屋から見つかった丙組幹部丁の名刺は、被疑事実と関連性を有する。

3 下線部①差し押さえは適法である。

 

下線部②差し押さえについて

1 USBは電磁的記録に当たるので、令状に記載されている。(①)

2 Pらは、USBの中身を確認することなく、差し押さえているが適法か。

(1)前述のとおり、差押えの対象は、被疑事実と関連性を有する物である必要があり、関連性を判断するためには、原則として、目的物の内容を確認する必要がある。もっとも、電磁的記録媒体は内容の可視性・可読性を欠くうえ, 記録の消去が容易である。そこで、

㋐ハードディスク等の中に被疑事実に関する情報が記録されている蓋然性が認められる場合において、㋑そのような情報が実際に記録されているかをその場で確認していたのでは記録された情報が消去されるなど、その場で中身を確認できない特段の事情がある場合に限り包括的な差し押さえることが出来る。

(2)ア 逮捕された甲は、「アジトには、パソコンとプリンターのほか~その名簿にはVさんの氏名と電話番号もあるのではないかと思います」と供述した。甲は自ら犯行を行ったと自白した。そして、かかる供述は、具体的でかつ、自ら不利になる犯行の詳細を述べているので、あえて嘘をついている可能性は低い。従って、信ぴょう性がある。甲の証言通り、乙のアジトにはUSBがあった。よって、このUSBには被害者であるVの個人情報が記録されている蓋然性が高いといえる。(㋐)

   イ 乙はこの場で確認してくれと頼んでいたので、その場で確認することができたとも思える。しかしながら、甲の供述ではパスワードは8桁で乙しか知らないと言った。他方、乙は、パスワードは「2222」であると話しており、甲の供述と矛盾する。そして、甲の供述によれば、このUSBはパスワードが仕掛けれていて、一度でも間違えると初期化されるという特殊なものであった。甲の供述は信用できるので、乙はPに、わざと違うパスワードを入力させ、データを消去して証拠隠滅を図っている可能性が高かった。従って、その場で安易にパスワードを入力せずに、一旦、署に持ち帰り、専門職員の協力の元、内容を確認する必要がある。よって、その場で中身を確認できない特段の事情があるので、㋑が認められる。

3 下線部②差し押さえは適法である。

 

設問2

小問1

1 本件メモ1は公判期日外の供述書面であるので伝聞証拠に当たり(320条1項)、証拠能力が否定されるのではないか。

2 伝聞証拠の証拠能力が否定される趣旨は、供述証拠はその知覚・記憶・表現・叙述の各過程に誤りが入り込む可能性が高いため、反対尋問等によって各過程をチェックする必要があるが, 伝聞証拠は反対尋問をなしえないため、証拠能力を否定するものである。よって、伝聞法則が適用されるのは, 反対尋問等によって内容の正確性を確保する必要がある場合,すなわち,要証事実との関係で供述内容の真実性が問題となる場合に限られると考える。

3 要証事実について

  当事者訴訟主義(256条6項、298条1項、312条1項)の観点から要証事実は原則として検察官の立証趣旨から導かれるが、立証趣旨によるとおよそ証拠としては無意味になるような場合には、例外的に、裁判所が実質的な要証事実を認定する。

  検察官の立証趣旨は、共謀の存在である。乙は、甲に指示を出した黒幕として共同正犯として訴追された。従って、甲と乙の共謀が立証されなければ、乙を強盗罪の罪に問うことはできない。そして、乙は甲との共謀を否認している。よって、立証趣旨は正当であり、立証趣旨たる共謀の存在が要証事実となる。

4 本件メモ1は、8月4日午前10時20分に乙が作成したことが証拠上明らかとなっている。そして、メモの内容は、1行目から5行目までが、Ⅴが犯人に電話で話した内容と一致している。そして、6行目と7行目までは、甲が行った強盗の態様と一致している。Ⅴが犯人に電話で話したのは同月4日の9時30分、甲は午前10時30分に乙からⅤに関する情報を伝えられ、その指示通り、11時30分にⅤ宅で強盗を行ったと供述している。

  そうすると、犯行本件メモ1の内容は、強盗に関与した者でなければ、知りえない情報であり、そのようなメモを乙が、犯行直前に作成している以上、本件メモの存在をもって、乙が本件強盗に関与していたことが合理的に推認できる。よって、本件メモ1の内容は、内容の真実性が問題とならないため、伝聞証拠にはあたらない。

5 本件メモ1は、証拠能力を有する。

 

小問2

1 本件メモ2に証拠能力は認められるか。まず、伝聞証拠に当たるか前述の規範により検討する。

(1)要証事実は本件メモ1と同じく、甲と乙の共謀の事実である。

(2)本件メモ2は、メモ1と異なり、甲方で発見され、乙が作成したことは証拠上明らかとなっていない。また、「乙から指示されたこと」、手書きであること、「ハナ✕」などその場で書きなぐったような記述があることから、本件メモ2は、甲が乙から指示された内容を書いたものであると推測できる。

内容は、2行目から5行目までが、Vが犯人に電話で話した内容と一致し、6行目から8行目までは、甲が行った強盗の態様と一致している。そうすると、本件メモ2から、甲と乙の共謀を認定するには、メモ記載の内容を、乙が甲に指示したことが証明される必要がある。すなわち、本件書面に記載された「乙から指示された」という事実が証明されて初めて要証事実である共謀の存在を推認できる。よって、本件メモの内容の真実性が問題となるので、伝聞証拠に当たり、同意(326Ⅰ)がない限り、証拠能力は原則として否定される。乙の弁護人は、不同意としている。よって、本件メモ2は伝聞証拠に当たり、原則として、証拠能力が否定される。

2 では、伝聞例外として例外的に証拠能力が認められないか。321条1項3号の書面に当たるかが問題となる。

(1)甲は供述を拒絶しているが、そのような場合も「供述することができず」といえるか。

 ア 同号の列挙する供述不能事由は例示的列挙であるため, 証言拒絶の場合も供述不能に含まれうる。もっとも、供述不能要件は伝聞証拠を用いる必要性を基礎付けるものであるから,一時的な供述不能では足らず、供述不能状態が相当程度継続することが必要である。

 イ 甲は、「私が乙や丙組のことを警察に話したとわかると、私の身が危ないので、調書の作成には応じられません」と、当初から乙や丙組の報復を恐れて、調書の作成には協力しなかった。その後の公判では、乙に関する供述を一切しなかった。また、裁判所は、甲と乙、傍聴人との間に遮へい措置を講じ、供述をさせようとしたが、それでも供述をしなかった。さらに、「私は、誰から何と~今後も絶対に証言することはありません」と今後も証言しないことを宣言している。以上から、甲の供述不能は相当程度継続するといえるので、「供述することができず」といえる。

(2)「その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができず」とは、供述を証拠とするか否かによって事実認定に著しい差異が生じる場合を指す。
 乙は一貫して、甲との共謀を否認している。そして、乙は甲に指示した黒幕である以上、目撃者などは考えられず、乙の指示を裏付ける物的証拠も他にない。そうすると、甲と乙の共謀を証明するには、指示を受けた甲の供述により証明するほかなく、甲の供述が証拠とできない場合は、共謀を立証できず、事実認定に著しい差異が生じるといえる。

(3)「その供述が特に信用すべき状況のもとにされたものであるとき」

  本件メモ2は、甲の手帳に挟まれていた。手帳は、自宅の施錠された机に保管されており、厳重に管理し、他人に見せることを予定していなかった推測できる。そのような専ら、自己のために利用し、他人に見せることを目的としない文書は、嘘を書く理由がないので、特信性が認められる。さらに、前述のとおり、甲は乙を恐れていた以上、あえて、乙に不利になる文書を作成する可能性も低いので、真実である可能性が高い。

  よって、本件メモ2は、「その供述が特に信用すべき状況のもとにされたものであるとき」といえる

3 本件メモ2は、伝聞例外証拠に当たり、証拠能力が認められる。

 

以上

 

[感想]

設問1 差し押さえの論点。これは、辰巳の西口先生の直前講座で、出るといわれていたので復習しておいて本当によかった。西口先生ありがとうございます。ただ、例年に比べ、書く分量が少なかったので、何か落としてないか不安。下線部①の差押えなんて本当に書くことなかった。下線部②は有名な包括差押えの論点。こんなコテコテの論点がでるんだね。

設問2 久しぶりの伝聞証拠。流れは、自分の答案であっていると思うが、あてはめが上手くできなかった。本番は、時系列を書きまくって、なんとなく頑張って当てはめをしている感をだした。刑訴は簡単だったこともあり、手ごたえあり。

 

これで、全問の答案作成が終わった。

感触としてはこんな感じ。

 

労働法 〇

憲法 ✕

行政法 〇

民法 ✕

商法 △

民訴 ✕

刑法 〇

刑訴 〇

令和3年司法試験再現答案 刑法

設問1 

1 甲が乙をナイフで脅し、腕時計100点を奪った行為について刑法(以下省略)236条1項の強盗罪が成立しないか。

(1)「暴行・脅迫」とは財物奪取に向けられた、相手方の反抗を抑圧する程度の暴行・脅迫をいう。この点、脅された丙は甲の共犯であり、脅されることを知っていた。そのため犯行を抑圧する程度の脅迫とはいえないのではないか。

しかしながら、脅迫の程度は、一般人を基準に反抗が抑圧される程度のものか判断する。甲は刃体20㎝にも及ぶ本件ナイフを甲に突きつけて、「刺すぞ」と脅した。よって、一般人の見地からみて、甲の脅迫は相手方の反抗を抑圧する程度の脅迫に当たる。

(2)本件時計は「他人の財物」に当たる。では、「強取」したといえるか。前述のとおり、丙は甲と繋がっていたので、犯行を抑圧されていない。そこで、強取したといえるには、被害者の反抗抑圧が必要か。
 この点、暴行脅迫が相手方の反抗を抑圧する程度のものであれば、被害者の反抗抑圧は必要ない。よって、「強取」したといえる。

(3)よって甲に強盗罪が成立し、後述の通り、丙と乙と共謀共同正犯となる(60条、236条1項)

 

2 丙が甲と協力して、時計を奪った行為について強盗罪の共同正犯が成立するか。

(1)丙は強盗行為を行っていない。そこで、共謀共同正犯が成立するか検討する。共同正犯が「すべて正犯とする」(60)とされ、一部実行全部責任の原則が認められる根拠は相互利用補充関係が認められるからである。そして、実行行為を分担していなくとも、相互利用補充関係は肯定されるので、㋐共謀の事実㋑共謀者の正犯意思 ㋒共謀者のなかの一部の者による共謀に基づく実行行為があれば共謀共同正犯は成立する。

(2)ア 丙は、某月1日、B店で強盗をする時間、方法等を打ち合わせ、役割分担を決めた。よって、甲と丙に意思連絡があり、共同で強盗する合意をした。よって㋐が認めらえる。

   イ 丙は、当初甲から、警備体制に関する情報を聞かれただけであったが、自ら、強盗に襲われたと装うことを持ち掛けた。よって、積極的に犯罪行為をする意思がある。そして、店員しか知らない、情報を甲に漏らし、自ら強盗の方法を提案したなど、重要な役割を担った。また、甲と丙は親友同士であり、対等な関係である。そして、丙は奪った時計を山分けする約束をしていた。よって、㋑が認めらえる。

   ウ 上記共謀に基づいて、甲が強盗行為を行った。よって、㋒も認めらえる。

(3)以上から、丙に強盗罪の共謀共同正犯が成立する。

 

3 乙が甲と協力して、時計を奪った行為について強盗罪の共同正犯が成立するか。

(1)まず、乙は見張りをしていただけなので、幇助犯にとどまるのではないか。正犯と狭義の共犯の区別が問題となる。この点、実質的に自己の犯罪として行った場合が正犯、他人の犯罪に加担したに過ぎない場合は狭義の共犯となる。
乙は、当初から甲と強盗をすることを計画し、時計を山分けする意思があった。また、通行人が甲を警戒したり、警察官らが駆けつけた場合に対処するのは、甲の強盗を成功させるうえで、重要な役割である。よって、乙は自己の犯罪として行ったといえるので、正犯として検討する。

(2)乙に共謀共同正犯が成立するか。前述の規範により検討するに、甲と乙はB店に強盗に入ることを共謀した(㋐)前述のとおり、商品を山分けする意思があったので、正犯意思もある(㋑)共謀に基づき、甲が強盗を行った。(㋒)よって、乙にも強盗罪の共謀共同正犯が成立する。

 

4 丙が強盗を装い、本件時計を甲に奪わせた行為は、A社に対する横領罪(252条)、背任罪(257条)いずれで問議すべきか。横領罪と背任罪は法上競合の関係にあるので、まず、重い罪である横領罪の成否を検討する。丙はB店の副店長であり、商品の仕入れや持ち出し等の権限はなく、全て店長Cの承認を得る必要があった。よって、丙は単なる占有補助者であり、本件時計の処分権はないので、本件時計を「占有」していたとはいえない。よって、横領罪は成立せず、背任罪の成否を検討する。

(1)丙は、B店の副店長として、接客、アルバイトの採用、また、売上金管理業務として当日の売上金額を本社に報告することのほか、各営業日の閉店前に、前日の売上金をA社名義の預金口座に入金することが義務付けられていた。よって、丙は財産上の事務を取り扱うものとして、「他人のためにその事務を処理するもの」といえる。

(2)丙は時計を自己のものとするため、甲に強盗を行わせた。よって、自己図利目的がある。

(3)「その任務に背く行為」とは、委託信任関係に違背した財産処理をいい、具体的には、業務の性質・内容からして、当然になすべきと期待される事務をしないことをいう。丙はB店の副店長として、店の商品を適切に管理する義務をおっていた。にもかかわらず、強盗を装い、店の商品を奪うことは、委託信任関係に違背した財産処理といえる。

(4)そして、A社は3000万円相当の時計を失うという「財産上の損害」を被った。

(5)よって、丙に背任罪が成立する。

 

5 甲が丙と共謀し、強盗行為を行ったことについて、背任罪の共謀共同正犯が成立しないか。

(1)背任罪は「他人のためにその事務を処理するもの」のみに成立する真正身分犯である(65条1項)そして、身分の無い者も身分のある者の行為を利用することによって、真正身分犯の保護法益を侵害することは可能である以上、65Ⅰの「共犯」には、共同正犯も含まれる。65の文言から、1項は真正身分犯の成立と科刑、2項は不真正身分犯の成立と科刑を定めた規定であると解する。

(2)前述のとおり、甲と乙は、共謀の上犯行を行った。よって、共謀共同正犯が成立するので、甲に背任罪の共謀共同正犯が成立する。なお、丙と乙は、共謀をしていないので、乙には背任罪の共謀共同正犯は成立しない。

 

6 丁が本件バックを保管したことについて、盗品等保管罪(256条2項)が成立するか。

(1)本件バックは強盗によって取得されたので、「財産に対する~領得された物」である。

(2)丁は乙から依頼されて、本件バックを「保管」した。もっとも、丁は、丁から預かった際、本件バックが盗品等であることを知らなかった。そこで、故意がないのではないか(38条)

   同罪の故意の内容として目的物が盗品であるとの認識が必要である。もっとも、盗品等保管罪は,追求権の実現を困難にする、継続犯である。よって、保管を委託された時点で認識している必要はなく、盗品等であることを知った時点から「保管した」といえ同罪が、成立する。

   以上から、丁は、本件バックが盗品等であることを知った時点で故意が認められ、同罪が成立する。

 

7 罪数

 甲と乙に強盗罪の共同正犯、横領罪の共同正犯が成立し、併合罪となる。(45条)。乙に強盗罪の共同正犯が成立する。丁に盗品等保管罪が成立する。

 

設問2

小問(1)

1 同時傷害の特例の不適用(207条)

 傷害の因果関係が不明であっても同時傷害の特例が成立すれば、甲は丙の障害結果も帰責されることとなる。そこで、「二人以上で暴行を加えて」といえるかが問題となる。

 この点、丙が乙を木刀で殴った際、甲は乙に殴られ、気絶していた。従って、丙の暴行の際は、甲は暴行に参加していたといえず、「二人以上で暴行を加えて」とはいえない。よって、207条は成立せず、利益原則の点から、甲は丙の障害結果について責任を負わない。

2 共謀共同正犯の否定

 丙の障害が、共謀に基づくものであれば、共同正犯として甲も責任を負う(60条)甲に共謀共同正犯が成立するか、前述の規範により検討する。乙が自宅に来る前、甲は「乙は生意気だから~押さえていてくれ」と丙に依頼し、丙も了解した。よって、乙を障害することについて共謀がある。(㋐)甲は自ら乙への制裁を持ち掛けているので正犯意思もある。(㋑)もっとも、甲と丙が共謀したのは、丙が体を押さえつけて、甲が木刀で殴るというものであり、丙が殴ることについては合意していない。よって、共謀の射程外であり、共謀に基づく一部の者の実行行為とは言えない(㋒)よって、共同正犯は成立しないので、甲は帰責されない。

3 共犯関係の離脱の成立

(1)たとえ、乙の行為が共謀の射程の範囲内であっても、甲は共謀関係から離脱しており、共同正犯は成立しない。共同正犯(60)の処罰根拠は、相互利用補充関係である。そこで、自己が創出した相互利用補充関係が解消されれば、共犯関係は解消されたと解される。具体的には、離脱者のそれまでの行為と、離脱後に生じた結果に、物理的・心理的因果関係の遮断が存在すれば、離脱が認められる。

(2)甲は丙が激高した際、「乙が警察にばらすはずがない~落ち着け」といさしめて暴行を辞めさせようとした。そして、丙に殴られ、気絶した。丙は甲が、乙を障害するのに邪魔であったから殴ったわけで、その時点で、甲と丙の相互利用補充関係は解消されていると評価できる。よって、共謀の離脱が成立するので、共同正犯は成立せず、甲は帰責されない。

 

小問(2)

1 同時傷害の特例の適用について

207条の「二人以上で暴行を加えて」とは、㋐各暴行が当該傷害を生じさせる危険性を有すること、㋑各暴行が同一機会に行われたものであれば足りる。

 甲と丙の木刀での殴打はいずれも障害結果を負わせる危険性を有していた。(㋐)甲の暴行も丙の暴行も、甲の自宅という同一の場所で行われ、甲の暴行から丙の暴行までわずか5分しか経っていなかった。よって、時間的場所的密着性があるので、同一の機会に行われたといえる。(㋑)以上から、207条が成立し、甲も乙の障害結果について責任を負う

 2 共謀共同正犯の成立

   共謀の射程は、共謀が実行行為者の行為を物理的・心理的に促進したといえる場合に認められる。

   甲と丙は乙を障害することを合意した。確かに暴行の方法については共謀と食い違いがあるが、乙を障害するという行為自体は当初の共謀の範囲内である。目的や動機も共通している。そして、暴行の際、行為者が興奮して多少の行き過ぎを起こすことはよくあることなので、丙が怒りに任せて自ら暴行を働いても、それは当初の共謀によるものといえる。よって、共謀の射程の範囲内にあるので乙は共同正犯として帰責される。

 3 共犯関係の離脱について

  共謀の離脱が認められるには、積極的な行為により行為と結果との因果性を断ち切ることが必要である。

  甲は丙をいさめたが、丙は聞く耳をもたず、丙を止めることはできなかった。従って、甲は、物理的・心理的因果関係の遮断をもたらすような積極的な行為を行っていないので、共謀の離脱は認められず、共同正犯として帰責される。

 

以上

 

 

[感想]

昨年から問題形式が変更されてやや焦る。ただ、自分的にはこちらの罪責を問われる形式の方が好き。答案構成は30分で終わらせ、後はひたすら書いた。再現答案はさすがに文字数多すぎだが、本番も8枚目の最後まで書ききった。8枚目に行ったのは刑法だけ。

設問1は書くことが多く、とにかく書きまくった。共犯である丙に対して強盗が成立するか悩んだが、ここで成立させないと後に話が続かないと思い、判例に従い、強盗が成立するとした。でも冷静に考えたら、未遂犯の共同正犯として論ることもできたので、強盗未遂にしてもよかったのかも。
 丙の罪責は背任罪でいいんだよな。これも危うく落とすところだったが、なんとか気づけて良かった。

設問2は、例年通り、論理問題。昨年の問題と非常に似てない?去年の問題、解いただけで解説講義は見れなかったので、ちゃんと講義を見ておくべきだったと激しく後悔。頑張って3つ書いたが、果たしてこれであっているのか。

刑法は全体的に手ごたえあり。

 

令和3年司法試験再現答案 刑法

設問1 

1 甲が乙をナイフで脅し、腕時計100点を奪った行為について刑法(以下省略)236条1項の強盗罪が成立しないか。

(1)「暴行・脅迫」とは財物奪取に向けられた、相手方の反抗を抑圧する程度の暴行・脅迫をいう。この点、脅された丙は甲の共犯であり、脅されることを知っていた。そのため犯行を抑圧する程度の脅迫とはいえないのではないか。

しかしながら、脅迫の程度は、一般人を基準に反抗が抑圧される程度のものか判断する。甲は刃体20㎝にも及ぶ本件ナイフを甲に突きつけて、「刺すぞ」と脅した。よって、一般人の見地からみて、甲の脅迫は相手方の反抗を抑圧する程度の脅迫に当たる。

(2)本件時計は「他人の財物」に当たる。では、「強取」したといえるか。前述のとおり、丙は甲と繋がっていたので、犯行を抑圧されていない。そこで、強取したといえるには、被害者の反抗抑圧が必要か。
 この点、暴行脅迫が相手方の反抗を抑圧する程度のものであれば、被害者の反抗抑圧は必要ない。よって、「強取」したといえる。

(3)よって甲に強盗罪が成立し、後述の通り、丙と乙と共謀共同正犯となる(60条、236条1項)

 

2 丙が甲と協力して、時計を奪った行為について強盗罪の共同正犯が成立するか。

(1)丙は強盗行為を行っていない。そこで、共謀共同正犯が成立するか検討する。共同正犯が「すべて正犯とする」(60)とされ、一部実行全部責任の原則が認められる根拠は相互利用補充関係が認められるからである。そして、実行行為を分担していなくとも、相互利用補充関係は肯定されるので、㋐共謀の事実㋑共謀者の正犯意思 ㋒共謀者のなかの一部の者による共謀に基づく実行行為があれば共謀共同正犯は成立する。

(2)ア 丙は、某月1日、B店で強盗をする時間、方法等を打ち合わせ、役割分担を決めた。よって、甲と丙に意思連絡があり、共同で強盗する合意をした。よって㋐が認めらえる。

   イ 丙は、当初甲から、警備体制に関する情報を聞かれただけであったが、自ら、強盗に襲われたと装うことを持ち掛けた。よって、積極的に犯罪行為をする意思がある。そして、店員しか知らない、情報を甲に漏らし、自ら強盗の方法を提案したなど、重要な役割を担った。また、甲と丙は親友同士であり、対等な関係である。そして、丙は奪った時計を山分けする約束をしていた。よって、㋑が認めらえる。

   ウ 上記共謀に基づいて、甲が強盗行為を行った。よって、㋒も認めらえる。

(3)以上から、丙に強盗罪の共謀共同正犯が成立する。

 

3 乙が甲と協力して、時計を奪った行為について強盗罪の共同正犯が成立するか。

(1)まず、乙は見張りをしていただけなので、幇助犯にとどまるのではないか。正犯と狭義の共犯の区別が問題となる。この点、実質的に自己の犯罪として行った場合が正犯、他人の犯罪に加担したに過ぎない場合は狭義の共犯となる。
乙は、当初から甲と強盗をすることを計画し、時計を山分けする意思があった。また、通行人が甲を警戒したり、警察官らが駆けつけた場合に対処するのは、甲の強盗を成功させるうえで、重要な役割である。よって、乙は自己の犯罪として行ったといえるので、正犯として検討する。

(2)乙に共謀共同正犯が成立するか。前述の規範により検討するに、甲と乙はB店に強盗に入ることを共謀した(㋐)前述のとおり、商品を山分けする意思があったので、正犯意思もある(㋑)共謀に基づき、甲が強盗を行った。(㋒)よって、乙にも強盗罪の共謀共同正犯が成立する。

 

4 丙が強盗を装い、本件時計を甲に奪わせた行為は、A社に対する横領罪(252条)、背任罪(257条)いずれで問議すべきか。横領罪と背任罪は法上競合の関係にあるので、まず、重い罪である横領罪の成否を検討する。丙はB店の副店長であり、商品の仕入れや持ち出し等の権限はなく、全て店長Cの承認を得る必要があった。よって、丙は単なる占有補助者であり、本件時計の処分権はないので、本件時計を「占有」していたとはいえない。よって、横領罪は成立せず、背任罪の成否を検討する。

(1)丙は、B店の副店長として、接客、アルバイトの採用、また、売上金管理業務として当日の売上金額を本社に報告することのほか、各営業日の閉店前に、前日の売上金をA社名義の預金口座に入金することが義務付けられていた。よって、丙は財産上の事務を取り扱うものとして、「他人のためにその事務を処理するもの」といえる。

(2)丙は時計を自己のものとするため、甲に強盗を行わせた。よって、自己図利目的がある。

(3)「その任務に背く行為」とは、委託信任関係に違背した財産処理をいい、具体的には、業務の性質・内容からして、当然になすべきと期待される事務をしないことをいう。丙はB店の副店長として、店の商品を適切に管理する義務をおっていた。にもかかわらず、強盗を装い、店の商品を奪うことは、委託信任関係に違背した財産処理といえる。

(4)そして、A社は3000万円相当の時計を失うという「財産上の損害」を被った。

(5)よって、丙に背任罪が成立する。

 

5 甲が丙と共謀し、強盗行為を行ったことについて、背任罪の共謀共同正犯が成立しないか。

(1)背任罪は「他人のためにその事務を処理するもの」のみに成立する真正身分犯である(65条1項)そして、身分の無い者も身分のある者の行為を利用することによって、真正身分犯の保護法益を侵害することは可能である以上、65Ⅰの「共犯」には、共同正犯も含まれる。65の文言から、1項は真正身分犯の成立と科刑、2項は不真正身分犯の成立と科刑を定めた規定であると解する。

(2)前述のとおり、甲と乙は、共謀の上犯行を行った。よって、共謀共同正犯が成立するので、甲に背任罪の共謀共同正犯が成立する。なお、丙と乙は、共謀をしていないので、乙には背任罪の共謀共同正犯は成立しない。

 

6 丁が本件バックを保管したことについて、盗品等保管罪(256条2項)が成立するか。

(1)本件バックは強盗によって取得されたので、「財産に対する~領得された物」である。

(2)丁は乙から依頼されて、本件バックを「保管」した。もっとも、丁は、丁から預かった際、本件バックが盗品等であることを知らなかった。そこで、故意がないのではないか(38条)

   同罪の故意の内容として目的物が盗品であるとの認識が必要である。もっとも、盗品等保管罪は,追求権の実現を困難にする、継続犯である。よって、保管を委託された時点で認識している必要はなく、盗品等であることを知った時点から「保管した」といえ同罪が、成立する。

   以上から、丁は、本件バックが盗品等であることを知った時点で故意が認められ、同罪が成立する。

 

7 罪数

 甲と乙に強盗罪の共同正犯、横領罪の共同正犯が成立し、併合罪となる。(45条)。乙に強盗罪の共同正犯が成立する。丁に盗品等保管罪が成立する。

 

設問2

小問(1)

1 同時傷害の特例の不適用(207条)

 傷害の因果関係が不明であっても同時傷害の特例が成立すれば、甲は丙の障害結果も帰責されることとなる。そこで、「二人以上で暴行を加えて」といえるかが問題となる。

 この点、丙が乙を木刀で殴った際、甲は乙に殴られ、気絶していた。従って、丙の暴行の際は、甲は暴行に参加していたといえず、「二人以上で暴行を加えて」とはいえない。よって、207条は成立せず、利益原則の点から、甲は丙の障害結果について責任を負わない。

2 共謀共同正犯の否定

 丙の障害が、共謀に基づくものであれば、共同正犯として甲も責任を負う(60条)甲に共謀共同正犯が成立するか、前述の規範により検討する。乙が自宅に来る前、甲は「乙は生意気だから~押さえていてくれ」と丙に依頼し、丙も了解した。よって、乙を障害することについて共謀がある。(㋐)甲は自ら乙への制裁を持ち掛けているので正犯意思もある。(㋑)もっとも、甲と丙が共謀したのは、丙が体を押さえつけて、甲が木刀で殴るというものであり、丙が殴ることについては合意していない。よって、共謀の射程外であり、共謀に基づく一部の者の実行行為とは言えない(㋒)よって、共同正犯は成立しないので、甲は帰責されない。

3 共犯関係の離脱の成立

(1)たとえ、乙の行為が共謀の射程の範囲内であっても、甲は共謀関係から離脱しており、共同正犯は成立しない。共同正犯(60)の処罰根拠は、相互利用補充関係である。そこで、自己が創出した相互利用補充関係が解消されれば、共犯関係は解消されたと解される。具体的には、離脱者のそれまでの行為と、離脱後に生じた結果に、物理的・心理的因果関係の遮断が存在すれば、離脱が認められる。

(2)甲は丙が激高した際、「乙が警察にばらすはずがない~落ち着け」といさしめて暴行を辞めさせようとした。そして、丙に殴られ、気絶した。丙は甲が、乙を障害するのに邪魔であったから殴ったわけで、その時点で、甲と丙の相互利用補充関係は解消されていると評価できる。よって、共謀の離脱が成立するので、共同正犯は成立せず、甲は帰責されない。

 

小問(2)

1 同時傷害の特例の適用について

207条の「二人以上で暴行を加えて」とは、㋐各暴行が当該傷害を生じさせる危険性を有すること、㋑各暴行が同一機会に行われたものであれば足りる。

 甲と丙の木刀での殴打はいずれも障害結果を負わせる危険性を有していた。(㋐)甲の暴行も丙の暴行も、甲の自宅という同一の場所で行われ、甲の暴行から丙の暴行までわずか5分しか経っていなかった。よって、時間的場所的密着性があるので、同一の機会に行われたといえる。(㋑)以上から、207条が成立し、甲も乙の障害結果について責任を負う

 2 共謀共同正犯の成立

   共謀の射程は、共謀が実行行為者の行為を物理的・心理的に促進したといえる場合に認められる。

   甲と丙は乙を障害することを合意した。確かに暴行の方法については共謀と食い違いがあるが、乙を障害するという行為自体は当初の共謀の範囲内である。目的や動機も共通している。そして、暴行の際、行為者が興奮して多少の行き過ぎを起こすことはよくあることなので、丙が怒りに任せて自ら暴行を働いても、それは当初の共謀によるものといえる。よって、共謀の射程の範囲内にあるので乙は共同正犯として帰責される。

 3 共犯関係の離脱について

  共謀の離脱が認められるには、積極的な行為により行為と結果との因果性を断ち切ることが必要である。

  甲は丙をいさめたが、丙は聞く耳をもたず、丙を止めることはできなかった。従って、甲は、物理的・心理的因果関係の遮断をもたらすような積極的な行為を行っていないので、共謀の離脱は認められず、共同正犯として帰責される。

 

以上

 

 

[感想]

昨年から問題形式が変更されてやや焦る。ただ、自分的にはこちらの罪責を問われる形式の方が好き。答案構成は30分で終わらせ、後はひたすら書いた。再現答案はさすがに文字数多すぎだが、本番も8枚目の最後まで書ききった。8枚目に行ったのは刑法だけ。

設問1は書くことが多く、とにかく書きまくった。共犯である丙に対して強盗が成立するか悩んだが、ここで成立させないと後に話が続かないと思い、判例に従い、強盗が成立するとした。でも冷静に考えたら、未遂犯の共同正犯として論ることもできたので、強盗未遂にしてもよかったのかも。
 丙の罪責は背任罪でいいんだよな。これも危うく落とすところだったが、なんとか気づけて良かった。

設問2は、例年通り、論理問題。昨年の問題と非常に似てない?去年の問題、解いただけで解説講義は見れなかったので、ちゃんと講義を見ておくべきだったと激しく後悔。頑張って3つ書いたが、果たしてこれであっているのか。

刑法は全体的に手ごたえあり。

 

令和3年司法試験再現答案 民事訴訟法

設問1

課題1

1 引換給付判決をすることができない場合、原告の請求原因である「正当事由」が認められないので(借地借家法6条)、請求は棄却される。そして、Xの申出額と格段の相違のない範囲を超えて、増額した立退料の支払との引換給付判決(以下、後者)との対比では、後者は、既判力が生じる点で、原告に不利となり妥当でない。

2 既判力とは、確定判決の判断内容の後訴での通有力をいい、その効果として、後訴裁判所は、基準時における判断を前提として、審理しなければならない。(積極的効果)また、当事者は、前訴既判力で確定された権利関係を争うために、基準時たる事実審の口頭弁論終結時前の事由を提出できなくなる。(消極的作用)そして、既判力(民事訴訟法(以下省略)114条1項)「主文に包含するもの」とは、審判の弾力化、簡易化の点から、判決主文で示された訴訟物たる権利・法律関係の存否についてのみ生じ、判決理由中の判断には生じない。

3 請求が棄却された場合、基準時において正当事由が存在しなかったことについて既判力が生じるが、正当事由は、基準時後においても生じる事由なので、裁判所は後訴で、再度、正当事由について審理できる。よって、請求棄却の場合、再度、正当事由たる立退料を争う余地がある。

4 後者について検討するに、まず、引換給付判決に既判力が生じるかが問題となる。仮に既判力が生じなければ、後訴で争う余地が出る。
 この点、引換給付文言は強制執行開始要件(民執31)として注意的に掲げられているにとどまり、訴訟物自体ではない。しかしながら、訴訟物と密接に関連すること、紛争の蒸し返し防止の観点から、引換給付文言についても既判力が生じると解する。そうすると、後者の場合、既判力によって、立退料が確定され、後訴で争うことができなくなる。よって、不当な立退料を争えなくなるという点で、後者は請求棄却に比べ、原告に不利といえるので、妥当でない。

 

課題2

1 Xの申出額よりも少額の立退料の支払いとの引換給付判決は、Xの申し立て事由と一定していない。そこで、246条に違反するのではないか。

2 246条は処分権主義の現れであるところ、処分権主義とは当事者が訴訟の開始・終了、訴訟物の内容の特定につき自由に決定できるという建前をいう。そして、処分権主義の趣旨は、原告の意思尊重と当事者の不意打ち防止にあるので、①原告の意思に合致し、②当事者に対して不意打ちとならない場合は、処分権主義に反しない

3 (1)Ⅹとしては、「1000万円~早期解決の趣旨で若干多めに提示した~早期解決の目がなくなった以上、より少ない額が適切であると思って」いると、1000万円はⅩの許容できる上限であり、より少ない立退料が適切であると主張している。よって、1000万円より少額の立退料を支払う判決はⅩの意思に反せず、むしろXの意思に合致する。さらに、Xは究極的には土地の明け渡しを求めているので、立ち退きの目的を達成できる本件判決はⅩの意思に沿う。よって①が認められる。

  (2)では、Yに対して不意打ちとならないか。Yは、口頭弁論において、1000万円の立退料では全く不十分であると主張し、1000万円という額を基礎に争っていた。にもかかわらず、1000万円よりもさらに少額の立退料を認定してしまうと、Yは想定外の損失を被ることとなり、Yにとって不意打ちに当たる。よって、②を欠く。

4 以上から、本件判決をすることは246条に反する為、許されない。

 

設問2

1 訴訟引き受けの申し立ての趣旨は、訴紛争解決の実効性を確保する点にある。そこで、「承継した」とは、訴訟物たる権利関係の承継人に限定されず、広く、紛争の主体たる地位を承継した者を指すと解する。具体的には、新旧両請求の目的、攻撃防御方法等の共通性の点から、後訴が前訴の争いから派生したといえれば、紛争の主体たる地位を承継したといえる。

2 確かに、Zは建物の賃貸人であるので賃貸借契約の終了に基づく土地返還義務はない。しかしながら、Ⅹは本件土地の明け渡しを望んでいる以上、Yに対する請求もZに対する請求も土地を明け渡せという点で共通している。また、Yに対する請求もZに対する請求も、請求の執行方法として、「建物退去」「建物収去」とし、同一の建物について退去又は収去する点で共通している。そして、Zが退去しなければならない建物はYから賃借りし、引き継いだものである。よって、Zに対する請求は、Yの請求と共通することが多く、前訴から派生したといえる。よって、「承継した」といえるので、訴訟引き受けの申し立てが認められる。

 

設問3

課題1

1 Ⅹは、本件新主張は時期に遅れた攻撃防御方法(157条)であるとして、却下されるべきであると主張する。

2(1)「故意または重大な過失」の有無は、当事者の法律知識の程度や攻撃防御方法の種類等を考慮して判断する。
確かに、Yは本人訴訟であったので、権利金の重要性を理解できなかったとしても、強くは非難できないとも思える。しかしながら、XとYが立退料をめぐって争っている以上、父親がAに1500万円もの大金を振り込んだ事実については少なくとも裁判所に申告すべきであった。Aからも、「本件土地の更新~保管しておくように」と伝えられていたのだからなおさらである。よって、重大な過失がある。

(2)「時期に遅れて」とは、実際に提出された時点より、以前に提出すべき機会があった場合を指す。Yは、本件通帳の存在とAへの振込みの事実を把握していたのであるから、もっと以前に提出することが可能であった。よって「時期に遅れて」といえる。

(3)「訴訟の完結を遅延させることとなる」とは当該攻撃防御方法に関する審理がなければ、ただちに弁論を終結できる段階にあることをいう。本件新主張が認められた場合、1500万円が更新料の前払いに当たるか認定する必要があるので、さらに証拠調べをする必要がある。さらに、Aの証人尋問も必要となる。本件新主張は、最終期日に主張されたので、仮に本件新主張がなければただちに弁論を終結できた。よって、「訴訟の完結を遅延させることとなる」といえる。

(4)以上から、本件新主張は時期に遅れた攻撃防御方法(157条)である

2 そして、却下判決を得るのを容易にするためにXは、裁判所に対し、なぜ、本件新主張をもっと以前に提出できなかったのか釈明権を行使するよう申し立てる。(149条)

 

課題2

1 Ⅹの立場

ZはYの承継人(50条)である以上、訴訟状態帰属効が生じる。訴訟状態帰属効が生じると、承継人は、被承継人の訴訟上の地位をそのまま承継するので、Yが157条により主張できない地位も引き継ぐ。よって、Zによる本件新主張は157条により却下される。

 2 Yの立場

(1)訴訟状態帰属効が生じる趣旨は、前主の訴訟追行によって、代替的に手続き保障が充足していたことである。そこで、被承継人と承継人で争点や攻撃防御方法の位置づけが大きく異なっていた場合は、代替的に手続き保障が及んでいなかったといえ、前主の訴訟行為は承継されない。

(2)YもZも正当事由がないことを争っていたという点では共通する。しかしながら、1500万円の権利金という重要な事実について、Yは一切主張していない一方、Zは更新量の前原の性質も含む重要な事実として位置付けていた。よって、重要な攻撃防御方法である権利金について位置づけが大きく異なっていた。

(3)よって、訴訟状態帰属効は生じないので、ZはYの157条違反の効果を承継しない。そして、Zが引き受けをしたのは、最終期日前であったので、Zが本件新主張をすることは時期に遅れた攻撃防御方法とはいえないので、却下されない。

   よって、Yの主張は却下されない。

 

以上

 

[感想]

設問1は本当に難しかった。3回ぐらい読み直したが、何を書けばいいか分からず、振り絞って、既判力の効果を書いた。引換給付判決は、判例だと、既判力は及ばず、信義則に基づき主張できないとなっていたはずだが、信義則で書く自信がなかったので、現場で既判力が及ぶと結論付けた。実は、設問1はもう一つ論点を書いたが、何を書いたか完全に忘れてしまった。もしかしたら弁論主義のことを書いたのかも、書かなくていいと書いてあるにも関わらず。

設問2は論証はばっちりだったが、あてはめをうまくまとめられなかった。考えすぎた。もっとシンプルに書けたと後悔。

設問3 課題1は157の当てはめをすればいいんだよね?これは、規範を覚えていたので書き負けていないと思う。その後の、却下判決を得るのを容易にするための行為は謎。適当に釈明権の行使にした。 課題2は多分これであっていると思うけど、本番は時間が足らず尻すぼみ答案になってしまった。 

令和3年司法試験再現答案 商法

設問1

1 本件連帯保証契約は、利益相反取引会社法(以下省略)356条1項3号、365条1項)に違反する為、無効であると主張することが考えられる。

(1)本件連帯保証契約が利益相反取引に当たるか。

 356条1項3号の「取引」とは、取引安全の見地から、客観的に、会社の犠牲のもとに、取締役に利益が生じる形式の取引をいう。本件連帯保証契約によって、Aは、担保を得ることができ、他方、甲社は、保証料を得ずに、無償でAの債務を保証するという負担を負った。よって、本件連帯保証契約は、「取締役の債務を保証すること」「利益が相反する取引」にあたる。そして、Aはかかる利益相反取引について、取締役会で承認を経ていないので、356条1項3号に違反する。

(2)では、甲社は、乙社に対して、356条1項3号違反を理由に、本件連帯保証契約の無効を主張できるか

ア 会社の利益保護と取引安全の観点から、相手方が、利益相反取引に当たること、及び承認がないことにつき悪意又は、悪意と同視できる重過失である場合に限り、無効を主張できる。

イ Bは、本件連帯保証契約について、Aが取締役会の承認を得ていると信じていた。よって、悪意ではない。では、重過失があるといえるか。
 取締役会の議決は、議事録を作成する必要があるので、(369条3項)議事録を請求し、確認するという行為を怠ったBは重過失があるとも思える。
 しかしながら、当初、Bは議事録の写しを請求したものの、Aから、議事録は公開できないと虚偽の説明を受けたため、確認ができなかった。甲社は知名度が高く、財務体質も良好な企業なので、Aが適正な手続きを踏んでいると信じるのも無理はなかった。また、あまりしつこく議事録を求めれば、Aの機嫌を損ねて取引の機会意を失ってしまう可能性があったので、それ以上の確認をしなかったことも非難できない。さらに、Bは、甲社代表取締役A名義で本件確認書の交付を受けている。代表取締役名義で取締役会の承認があった旨の文書の交付を受けたら、議事録に代替するものとして、手続きを進めてしまっても重大な過失があるとまではいえない。以上から、Bに重大な過失があったとはいえず、よって、甲社は、乙社に対して、無効を主張できない。

2 次に、甲社は、本件連帯保証契約は、362条4項2号に違反するとして、無効主張できないか。

(1)ア 同項の趣旨は、代表取締役の専断を防止し、会社財産を保護する点にある。そこで、「多額の借財」に当たるか否かは、借財の価格、会社の規模等を総合的に考慮して判断する。

   イ 甲社が保証した5000万円は、甲社の資本金である1億円の50パーセントにも上る額である。よって、5000万円を保証する本件連帯保証契約は「多額の借財」にあたる。

(2)では、362条4項2号に違反する代表取締役の行為は、無効といえるか。

ア 代表取締役が取締役会の決議を経ているものか否か相手方は、容易に認識し得ない。そこで、取引安全の見地から、民法93条ただし書を類推適用し、相手方が取締役会決議の欠如につき悪意又は有過失の場合に限り、当該行為は無効となると解する。

イ Bは本件連帯保証契約について、取締役会決議を経たと信じていたので悪意ではない。また、前述のとおり、重過失ではなく、過失があったともいえない。よって、本件連帯保証契約は有効であり、甲社は無効主張できない。

 

設問2

1 Ⅽは、Aに対して、自らが株主であると主張できるか。

2 株主とは、株式を所有している者であり、株式とは、会社の社員たる地位である。そこで、株式とは、形式的に株主名簿に記載されているか否かだけでなく、実質的に、会社の社員として、会社財産を所有し、権利を得ているものと解する。

3 本件株式の株主名簿には、Aが株主として記載されている。しかしながら、これは、Aが甲社を継ぐために実家に戻る際、Cから「いずれ社長になる身として、従業員や取引先の手前、多少の株を持っておく必要がある」と言われたため、株主となった経緯がある。その際、Ⅽからは、「金のことは心配しなくていい」と言われ、Aは、株式取得のための資金をだしていない。本件株式の払込金額2000万円は、全てCの貯金によって賄われ、株式発行に必要な事務手続きは全てCの指揮の下、甲社総務部の職員が行い、Aの記名押印も職員が行った。以上からすると、Aは、いわば名義貸しのような形で、本件株式の取得には一切かかわっておらず、実質的に本件株式の取得の対価を払い、取得をしたのはCといえる。
 また、本件株式に係る剰余配当金は、C名義の銀行口座に振り込まれており、これらの剰余金配当については、Cの所得としてCのみが確定申告を行っていた。さらに、本件株式にかかる総会の招集通知等は、後者の総務部に留め置かれ、議決権はCが行使していた。そうすると、本件株式の利益は専ら、Cが行使、享受していたといえる。
 以上から、実質的に、本件株主を所有し、その権利を得ていたのは、Cといえるから、本件株式の株主はCであるといえる。よって、Cの主張は認められる。

 

設問3

1 「株主」であるAは、831条第1号により、総会決議の取消の訴えを提起できないか。

2 Dが総会に出席できなかったことについて

(1)DはCの代理人として総会に出席しようとしたが、甲社定款で、代理人は他の株主に限定されているため、出席資格がないとされた。そこでまず、代理人を他の株主に限定する本件定款は有効か。310条に反しないかが問題となる。

 ア この点、会社は、非株主による株主総会のかく乱を防止する必要がある。そこで、①合理的な理由があり、②相当程度の制限にとどまる場合には、同項前段に反せず有効であると解する。

イ 代理人資格を株主に限れば、非株主による株主総会のかく乱を防止できる。(①)そして、株主が、他の株主に代理行使を依頼することは通常容易であるので、制限の程度も相当といえる。(②)よって、本件定款は310条1項に反せず、有効である。

(2)もっとも、本件においては、例外的に定款が及ばないのではないか。

ア 前述のとおり、代理人資格を株主に限る旨の定款規定が許容される根拠は、非株主による株主総会のかく乱を防止する点にある。そこで、非株主である代理人の議決権行使を認めても、①株主総会がかく乱されるおそれがなく、②これを認めないとすれば、事実上議決権行使の機会が奪われる場合には、定款規定の効力は例外的に及ばないと解する。

イ Gは弁護士である。法律の専門家たる弁護士は、その職責から、依頼者の意向に忠実に従うことが期待でき、株主総会をかく乱させるような行動をとることも通常は考えられない。よって、①が認められる。また、甲社は非公開会社で株主が少なく、代理人となりえる者が限られている。さらに、本件では、DはAとCがもめていることを知っており、その争いに介入したくないという思いから、代理人を立てて、議決権を行使しようとした。そうすると、本件でGの議決権の代理行使を認めなければ、Dは議決権を行使することが、困難となり、事実上議決権行使の機会が奪われることとなる。(②)

(3)よって、本件では、例外的に定款が及ばない。にもかかわらず、CがGの議決権行使を認めなかったことは、「決議の方法が~法令に違反する」といえるので、決議取り消し事由に当たる。そして、Dは、20万個の議決権を有していたので、「決議に影響を及ぼさない」とはいえず、裁量棄却も認められない。

2 丙社の議決権について、Fによる投票を有効としたことについて

(1)丙社の内規によると、甲社の議決権行使は総務担当の取締役専務に委ねられており、同取締役専務から委任を受けたAは丙社の議決権を行使できる。(Aによる投票)
 他方、Fも丙社の代表権を有しているので、株主総会で丙社株式の議決権を行使することができる。(Fによる投票)そして、内規によると、丙社においては、取締役専務が甲社の議決権行使について権限を有するが、AとCもかかる内規の存在を知らなかったので、丙社は、代表権を有するFが投票したことについて、対抗できない。(349条5項)

そうすると、Aによる投票とFによる投票、いずれも丙社の議決権を行使できるものであり、そのうち、Fによる投票を有効と扱うことは、議長の裁量として認められる。

(2)もっとも、Fは専務取締役Eが包括委任状を提出していることを知っていた。にもかかわらず、本件株主総会に出席して、議決権を行使することは信義則に反しないか。
 この点、Cは、Aを甲社の経営から排除しようと考え、Fに議決権行使を依頼したが、Cは、前述のとおり、丙社の内規を知らず、丙社の内規上、Fが議決権を行使することができないことは知らなかった。そうすると、Cは丙社の内部事情を知らなかった以上、Fに議決権行使を依頼することが信義則に反するとまではいえない。よって、Fによる投票は有効である。

 

以上

 

[感想]

設問1は、利益相当であることはすぐに気づけたが、362条4項2号違反は、設問3を書き終わってから気づいた。なんとなく、説明1は、これじゃ分量足りなー とおもいつつ、見直して初めて分かった。そのため、一番最後に付けたす形で書いたが、形式的にこれでも大丈夫なんだよね?

設問2は論証も論点も分からなかったので、完全にでっちあげ。ここは現場問題でしょう。

設問3 Gについては有名な論点なのでかけた。問題はFの投票。正直全くわからなかった。超適当。

令和3年司法試験再現答案 民法

設問1

請求1について

1 AはⅭに対して、所有権に基づく甲動産の引き渡し請求権を主張する。甲動産はAが所有していた。甲動産は現在、Ⅽが占有している。よって、請求原因事実は認められる。これに対して、Ⅽは、Ⅾは即時取得民法(以下省略)192条)により、甲動産の所有権を取得しているので、所有権喪失の抗弁を主張する(主張㋐)では、Ⅾの即時が認められるか

2 Ⅾは令和2年5月15日、Bとの売買契約という「取引行為」によって、甲を取得した。「平穏・公然」を覆す事情はない(186条1項)売買契約の際、BはⅮに対して、「甲は~買った」と虚偽の説明をした。また、甲に所有者を示すプレート等はなく、他に不審な点もなかった。よって、Dは、「善意」「無過失」である。

3 もっとも、甲は売買契約後も賃借人であるⅭが引き続き占用し続けた。BはⅭに対して、甲をⅮに譲渡したので以後Ⅾのために占有し、Ⅾはこれを承諾した。かかる引き渡しは、指図による占有移転(184条)に当たるが、る引き渡しが、192条の「占有を始めた」に当たるかが問題となる(主張㋑)

(1)取引安全の見地から192条の「占有」は、外部から占有の移転が把握できる必要がある。

(2)占有改定と異なり、指図による占有移転は、現実に占有が代理人に移転しており、代理人の承諾によって外部から占有の移転を認識できる。よって、「占有を始めた」に当たる。

4 以上から、即時取得が成立する。ただし、動産甲は盗品なので、Aは193条により回復請求をすることができる(再抗弁)したがって、Aが回復請求権を行使した場合は、請求1は認められる。

 

請求2について

1 AはⅭに対して不当利得返還請求(702条)を行使することが考えられる。前述のとおり、Dは即時取得により、甲を取得しているが、他方で、Aは回復請求権を行使できる。では、即時取得時から回復請求権を行使するまでの期間は、原所有者あるいは、即時取得のいずれに動産の使用収益権があるか。仮に、即時取得者に使用利益があるとすれば、Aは「損失」がないので、Aの不当利得返還請求は認められない。(主張㋒)

2 占有者は原権利者から回復請求がなされるか不明であり、不安定の状態にある。そうすると、不安定な占有者を保護する為、占有者は、返還請求権が行使されるまで、動産の使用収益権をもち、使用利益の返還義務を負わない。よって、使用利益は即時取得であるⅮが有し、Aには「損失」がないので、請求2は認められない。

 

設問2

小問(1)

契約①の債務の内容は、従業員に乙検定を合格させるため、授業を行うこと、さらに、従業員を乙検定に合格させることである。報酬として、月額60万円とは別に、合格者に応じた成功報酬を支払う旨合意していたことから、当事者の合理的意思として、授業を行うだけでなく、合格させることも債務の内容に含まれていたと解する。契約の性質は準委任契約である。(656条)

 

小問(2)

1 請求3について

 Aとしては、Eの授業が厳しく、従業員が講座を続けるのが困難な状態になっていたことから、Eは債務を履行しているといえず、したがって、報酬を支払う必要はないと反論する。しかしながら、Eは厳しいながらも、契約①のとおり、講座を行っていたので、債務不履行はない。よって、Eは契約①に基づき、8月分の月額報酬60万円を請求できる。

2 請求4について

(1)Aは契約が解除されたので、9月10月分の報酬を支払う必要はないと反論する。しかしながら、前述のとおり、Eは契約①に基づき乙検定合格に必要な講座の授業を継続していた。30名の生徒の内、20名は引き続き受講をしていたことからも、Eに債務の不履行があったとはいえない。よって、Aによる解除(541条)は認められない

(2)EはAの債務不履行を理由に損害賠償請求として、120万円を請求することができるか。Aは契約①に基づき報酬を支払っていない。Aは自ら、Eに出張講座の開設を依頼している。Aは事前に、Eの授業内容を理解していたはずであるし、理解することが可能であった。従って、「債務者の責めに帰することができない事由によるものであるとき」(415Ⅰ但し書き)

(3)では、EはいくらAに請求できるか。損害賠償の範囲が問題となる。

 ア 416条は、損害の公平な分担という見地から、1項で相当因果関係の原則を定め、2項で相当因果関係の有無を判断する際に基礎とすることのできる特別の事情の範囲を定めている。

 イ 9月分と10月分の月謝相当にあたる120万円は、Eの他の出張講座よりも高額であったので、特別の損害といえる。しかしながら、月謝60万円を払うという内容は、契約①の合意の際、Aも了解していたので、Aは、自身の債務不履行によって、生ずべき損害として、「予見すべき」ものといえる。よって、416条2項により、120万円を請求できる。

 ウ 乙検定の合格者数に応じた成功報酬は認められるか。確かに、従業員はEの講座を受講したことで、能力が飛躍的に伸び、開講から1か月後に実施された模擬試験でも良好な成績を伸ばした。従って、Aの債務不履行が無ければ、契約①の通り、Eは成功報酬を得られていたとも思える。しかしながら、Eの講座が閉鎖されてから、試験まで3か月間あり、その間、従業員は他者の通信講座を受講して勉強している。そうすると、従業員は、Eの講座のおかげで合格したかは不明であり、相当因果関係が否定される。よって、成功報酬の請求は認められない。

 

設問3

小問(1)

1 消滅時効の主張

(1)「債権者が権利を行使できる」令和10年4月1日から5年経過している。(令和15年4月1日)Fは保証人なので、時効の援用(145)ができる。よって、Fは、500万円の貸金債権の消滅時効を主張し、付従性から保証債務も消滅としたとして、500万円の支払いを拒むことができると思われる。

(2)しかしながら、令和10年6月20日、Aは、Hに対して支払いの猶予を求めている。かかる行為は債務の承認(152条1項)に当たり、時効が更新され、その効果は保証人にも及ぶ。(457条1)よって、貸金債権の時効は完成していないので、Fは消滅時効の主張はできない

2 相殺

(1)丙の売買代金100万円について相殺(505)を主張し、支払いを拒めないか(457条3項)

(2)貸金債権と丙の売買代金いずれも金銭債権という「同種の目的」を有する債権である。双方ともに弁済期にある(令和10年4月1日、令和4年8月31日)丙の売買代金債権は令和9年8月31日で時効期間が経過しているが、それ以前に相殺適状となっているので、相殺をすることができる(508条)よって、Fは、丙の売買代金100万円について、相殺を主張し、支払いを拒める。

 

小問(2)

1 Gに対する求償

GとFは連帯保証人同士であり、負担割合は2分の1(250万円ずつ)である。HはFに対し200万円の免除をしているが、免除の効果は相対効なので(441条)なので、GF間の負担割合は変わらない。そして、Fは300万円を負担したので、負担割合に基づき150万円を求償できる(464条、441条)

 

2 Aに対する求償

Fは債務者であるAから委託を受けずに保証人となった。よって、弁済によって利益を受けた500万円について求償できる(462条、459条の2第1項)

 

[感想]

説明1は、なんとか論点には気付くことができたと思う。ただし、論証がうる覚えのものだったので、かなり雑な記述になってしまった。唯一、設問1が書けたと思う

設問2は全く分からん。筆を置きそうになったレベル。唯一、契約の性質として、準委任契約と書いたところは自信がある。その他は意味不明。損害賠償請求(415)なんだろうけど、最初は536とかでずっと考えていた。再現答案を作っている今ですら何を書けばいいのかわからない。

設問3 例年と同じく、設問3は簡単だろうと予測していたが、いかんせん時間がなかった。設問2は配点が少なかったので、早く切り上げよう、早く切り上げようと心の中で何度も思っていたが、結局、本番ではダラダラ考えて時間を浪費してしまった。小問1の相殺は、よく考えれば、相殺適状していないから、できないじゃん。本番では、焦って気づけなかった。小問2も条文間違えるし、他にも気づけていないことがだくさんあるだろう。民法は✕だ。