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令和2年予備試験 再現答案④ 刑法

1 自身が暴力団員であることを隠して、賃貸借契約を締結した行為が、詐欺罪(刑法(以下省略)246条2項)に当たるか。

(1)「欺く」とは交付の基礎となる重大な事項について偽るということをいう。

ア 重大性
本件居宅がある某県では、暴力団排除の観点から、不動産賃貸借契約において、本件条項のような、暴力団でないことを確認する旨の記載を設けることが推奨されていた。また、暴力団等居住していると、他の住民が恐怖を感じ、新規入居者も減少することから、不動産の資産価値が減少する為、本件条項を設けることは、一般的である。よって、賃借人が暴力団であるか否かは賃貸借契約において重要である。

イ 偽る
確かに、甲は自身が暴力団ではないと、積極的に話したわけではない。しかしながら、X組組員であることは告げず、暴力団員でないことを隠すため、変更前の氏名名乗った。また、使用目的については、A宅を監視する為という本来の目的は隠し、人材派遣業の事務所で使用すると嘘を話した。さらに、本件条項が記載された契約書に署名した。以上から、甲は黙示的に自己が暴力団員でないということを表示しているといえ、挙動による欺罔行為に当たり、欺罔行為と認定できる。

(2)甲は賃貸借契約により、賃借権を得たので、「財産上不法の利益を得た」といえる。

(3)詐欺罪も財産犯である以上、財産的損害が必要である。この点、甲は家賃等必要な費用を払う意思も資力もあったので、Bに財産的損害が発生していないのではないか。

ア 財産的損害とは、被欺罔者の経済的目的が達成できなかった場合を指す

イ 前述のとおり、Bは暴力団員でないものと賃貸借契約をすることを目的としているので、かかる目的が達成できていない点で、財産的損害が認められる。また、不動産の資産価値が下がるというリスクがある点で、財産的損害が認められる。

以上により、詐欺罪が成立する。

2 賃貸借契約書に変更前の氏名を記入したことが有印私文書偽造罪(159条)に当たるか。

(1)甲は本件居宅を借りるという目的を有していた。よって、「行使の目的で」といえる。また、認め印を押しているので「有印」である。そして、賃貸借契約書は「権利、義務~に関する文書」である。

(2)では、偽造したといえるか

ア 「偽造」とは、文書の名義人の作成者の同一性を偽ることをいう。そして、名義とは本名でなくとも通有性があれば足りる。なぜならば、同条の保護法益は文書に対する公共の信頼であるからである。

イ 甲は氏名を変更しているが、人材派遣業や日常生活においては変更前の氏名を用いており、変更前の氏名も通有性がある。従って、名義人、作成者いずれも甲の為、人格の同一性はあるとも思える。
 しかしながら、前述のとおり、本件賃貸借契約においては、賃借人が暴力団員でないということが契約の重要な要素となっており、文書の性質上、「暴力団ではない」ということが名義人の書かれざる要件となっている。そして、名義人は、「暴力団員でない」甲である。他方、作成者は、「暴力団員である」甲であり、人格の同一性に齟齬がある。よって、偽造したといえ、私文書偽造罪が成立する。

3 甲はかかる偽造文書を賃貸借契約書としてBに渡したので、「行使した」といえる。よって、偽造文書等行使罪(160条)が成立する。

4 丙を殴り、死亡させた行為が傷害致死罪(205条)に当たるか。

(1)甲は、拳で丙の顔面を殴り、急性硬膜下血腫という生理的障害を負わせ、これに「よって」死亡に至らしめた。よって、傷害致死罪の構成要件には妥当する。そして、甲は丙に襲われたと思い、自身の身を守る為、上記暴行を行ったが、実際には丙は乙に連絡しようとしていただけであり、「急迫不正」の存在は無かったので、正当防衛(36条1項)は成立しない。

(2)もっとも、甲は、丙に襲われたと、勘違いをしていた。すなわち、急迫不正の侵害が無いにも関わらず、あると誤信していた。そこで、責任故意が阻却されるのではないか。いわゆる、誤想防衛が問題となる。

ア 故意とは、規範に直面し反対動機の形成が可能であったにも関わらず、あえて犯罪行為に及んだことに対する強い道義的非難をいう。そして、違法性阻却事由を誤信している場合は、規範に直面し反対動機を形成できないので、故意が阻却される。

イ 甲は、いきなり現れ、自身よりも体格がいい丙が胸ポケットから物を取り出したのを見た。暴力団員風の男が、胸ポケットから物を取り出した場合、武器で自身を襲ってくると誤信するのは止むを得ない。そして、スタンガンで襲われると誤信したのに対し、拳で一回殴るのは、手段として相当である。よって、甲は急迫不正という違法性阻却事由を誤信していたので、故意が阻却される。
 なお、甲は、丙の態度を注視していれば、丙が自身に攻撃を加える意思がないことを容易に認識することが出来た。しかしながら、違法性阻却事由を誤信していたか否かは、あくまでも甲の内心の問題であり、甲の主観として、違法性阻却事由を誤信していたのであれば、例え、そのように認識することが可能であっても、結論は覆らない。

     よって、傷害致死罪は成立せず、過失致死罪(211条)が成立するにとどまる。

5 罪数

①詐欺罪②私文書偽造罪③偽造文書等行使罪④過失致死罪が成立し、②と③は牽連犯(54条)となり、他の罪と併合罪(45条)となる。

 

以上

 

  • 雑感

問題のレベルとしては普通ぐらいか。一番難しいところとしては、甲が変更前の氏名で契約書を作成したことが、「偽造」にあたるかどうかというところかな。これは論点を知っていたので書けた。刑訴の一事不再理効の論点もそうだけと、やはり、論点を知っていれば、気付くし、書ける。そして、論証に悩まなければ、その分、当てはめに時間をさける。そう思うと論証の勉強はめちゃくちゃ重要なんだよな。

  反省点としては、甲の足蹴りを完全に抜かしてしまったこと。これは気づいていたんだが、もう時間がなかったので、書かなかった。やはり、刑法は書かなければならないことがたくさんで大変。