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令和3年司法試験再現答案 [労働法 第1問] 

設問1

1 本件出勤停止処分は労働契約法(以下省略)15条に反し、無効ではないか

2 使用者は企業経営上の必要性から、企業秩序維持定立権を有する。もっとも、懲戒処分は一種の制裁罰であるから、罪刑法定主義類似の要請から就業規則等の合意とその周知が必要である。Y社では、就業規則は制定されていないが、労働者と個別に労働契約書を締結しており、同契約書18条で懲戒処分に関する定めが設けられているので、合意と周知がある。よって、「懲戒することができる場合」に当たる。

3 (1)本件出席停止処分には、懲戒処分を行える「客観的に合理的な理由」があるか。就業規則上の懲戒事由該当性により審査される。そして、懲戒事由の実質的根拠は企業秩序維持の要請にあるので、懲戒事由該当性が肯定されるためには、懲戒事由に形式的に該当するだけでなく、企業秩序侵害性が必要となる。

  (2)X1の行為は、労働契約書18条3項4項に当たる。また、Y社は有料職業紹介事業を営んでいるところ、事業の性質上、求職者との信頼関係は極めて重要である。そうすると、媒体を紛失し、求職者の個人情報を紛失させたX1の行為は、Y社の信用・評判を失わせ、深刻な損害を行為である。よって、企業秩序侵害性がある

4 (1)「社会通念上相当である」といえるか。㋐労働者の行為と懲戒処分の内容に均衡があるか㋑適正手続きがなされたかで判断する。

(2)ア Y1社はX1に弁明の機会を与えることなく、本件処分をしている。よって、㋑を欠く

イ まず、出勤停止中は、無給となるのでX1にとって不利益が大きい。他方、X1が媒体を自宅に持ち帰ったのは、時間外・休日労働の時間数が1か月あたり60時間を超えるような過重労働が課されている中、Aから、午後8時以降は会社内で勤務しないように通告を受けたためである。よって、大きく非難できるものではない。また、うたた寝をしてしまったのも、連日の過重労働により、心身が疲弊していたせいである。さらに、X1は、媒体を紛失後、事実を隠ぺいすることなく、直ちに経緯を説明し、被害拡大の防止に努めた。事故発生後の対応としては問題がない。また、Y社は、個人情報の持ち出しを原則禁止するのであれば、単に上司の許可を得るだけでなく、物理的に個人情報を持ち出せない等の仕組みを整備すべきであった。よってY社にとっても落ち度がある。
 以上からすると、Ⅹ1の行為は情状酌量の余地があるにもかかわらず、出勤停止処分という思い処分を科している点で、㋐を欠く

5 よって、本件出席停止処分は無効である

 

設問2

1 「過失」あるⅩ1の行為に「よって」、Y社は賠償金48万円を求職者に支払うこととなった。従って、Y社の営業の利益という、「法律上保護される利益」が「侵害」された。よって、Y社はⅩ1に民法709条に基づき損害賠償請求権を有する。

2 もっとも、Y社は損害額48万円全額をⅩ1に求償している。そこで、全額求償することが許されるか(同法715条3項)

(1)報償責任・危険責任の趣旨から、使用者の被用者に対する求償は,信義則上(同法1条2項)相当な範囲に限定される。そして、その範囲は、①労働者の帰責性②損害発生に対する使用者の寄与度等を総合的に判断して算出する

(2)ア 確かに、Ⅹ1は上司の許可を得ずに媒体を持ち帰り、紛失するという違反を犯している。また、これにより、Y社に損害が生じている。もっとも、上記の通り、X1が媒体を持ち帰ったのは仕事が就業時間内に終わらないとい事情があったためであり、大きく非難はできない。

   イ 上記の通り、Y社は個人情報を物理的に持ち出せないよう、整備をするべきであった。また、自宅に仕事を持ち帰らざるを得なくなるような業務量をⅩ1に課しているいる点でY社にも事故発生の責任がある

(3)よって、Y社の求償額は信義則上限定され、48万円全額をⅩ1に求償することはできない。

 

設問3

1 AはⅩ2、Ⅹ3に対し、30日間の予告期間をおいて解雇している。よって、労働基準法20条1項には反しない。もっとも、本件解雇は16条に反し、無効とらないか。

2 解雇を行うには、解雇事由該当性が必要であるところ、Y社に就業規則はなく、また、労働契約書には解雇に関する定めはない。そこで、労働者が解雇することについて合意(3条1項)があった場合に限り、使用者は解雇できると解する。
 Y社は労働者全員が出席する朝礼の場で、経営方針にそぐわない2名を解雇する旨説明し、Ⅹ2らを含め特段意見や質問はなかった。かかる労働者の対応によって、解雇されることに合意したとも思える。
 しかしながら、解雇は労働者の雇用を喪失させる重大な行為である。よって、解雇への同意は明確な意思表示があって、初めて認められる。X2らは上記の方針に対して、沈黙していただけで、明示的に同意したわけではない。よって、解雇について同意があったとはいえない。

3 仮にX2らの同意が有効であったとしても、「客観的に合理的な理由」があるか

(1)解雇は労働者に雇用の喪失という重大な不利益をもたらすものであるから、最後の手段としてのみ許容される。そこで、①労働者の解雇事由が重大で、是正の余地がないこと。②使用者が解雇回避努力を尽くしたことが必要である。

(2)ア Ⅹ2らは「会社の~人材」という方針に照らし、会社への協調性や柔軟性を欠いていると評価を受けたため、解雇対象となった。しかしながら、協調性や柔軟性の欠如は是正の余地があり、直ちに解雇をしなければならないほどの重大な帰責事項には当たらない 

  イ 確かに、Y社は、売り上げが3年連続で低下し、労働者6人を雇用し続けることが難しい状況となっていた。しかしながら、解雇という手段を取る前に、賃金カットや経費削減などが可能であり、解雇回避努力をつくしたといえない

4 よって、解雇は無効である。

 

以上

 

【感想】

記念すべき、司法試験一発目の論文。一番最初の論文なので、ここで躓くと後に引きずることが容易に想像できたので、本当に緊張した。

第1問は難易度としてはそこまで高くないと思う。設問1は、典型的な懲戒処分の問題。ただ、気がかりなのは、答案構成に「出勤停止」ではなく、「出席停止」と書いていたこと。答案では、ちゃんと、出勤停止と書いていたことを願うが、全部「出席」にしちゃっていたかも。本当にバカ。こういう書き間違いって、減点になるのかな。

設問2は、715Ⅰの当てはめを忘れた。たぶん、ここも点数があったと思う。問題文の「損害賠償請求」は認められるか、というところに引っ張られ、709だけ書いて、715Ⅲに流してしまった。

設問3は、名に書けばいいのかよくわからん。とりあえず、普通解雇の論証を書いたが、正解筋は全然違うかも。

 あと、労働法は紙面が足りなかった。もう少し、小さな字で書いておくべきだと反省。