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令和3年司法試験再現答案 [労働法 第2問] 

1 Ⅹに対する懲戒解雇は有効か。

2 本件解雇は、Ⅹが主導した罷業行為及び会社に対する誹謗中傷の投稿に対してなされた。仮に、かかる行為が、正当な行為であると認められれば、「客観的に合理的な理由」(労契法15条)を欠くとして、無効になるとも思える(労働組合法(以下省略)8条参照)そこで、本件罷業及び投稿(以下、本件行為)が正当な行為にあたるかが問題となる。

3 争議行為とは、団体交渉促進のために行われる、労務不提供を中心とした圧力行為、及びこれに付随する行為をいう。本件罷業は、Wの団体交渉拒否に対する抗議として行われた。また、投稿行為は、罷業を正当化する為に行われたので、付随行為といえる。よって、本件行為は争議行為にあたる。では、正当な争議行為と言えるか。①主体、②目的、③手続、④態様から判断される。

(1)主体

ア 団体交渉の主体は、労働組合(2条)である。Xは本部の了承を得ないまま、本件行為を行っているので、労働組合の行為といえず、主体の正当性を欠くのではないか

イ 確かに、Ⅹにとってみれば、交渉が長期化すれば不当な前例が既成事実化し、F支工場の組合員の労働条件が悪化するという懸念があった。しかしながら、各組合支部は、工場側と折衝することは認められていたものの、団体交渉をしたり、労働協約を締結したりする権限はなかった。そして、組合本部のP書記長は、時期尚早であると、Xの計画を認めなかった。労使交渉は、使用者と組合が対等な関係に基づき行われるものであるところ、労働組合の意思に基づかない、組合員の争議行為を認めてしてしまうと、労使間の信頼が損なわれ、7条の趣旨が没却される。よって、主体の正当性を欠く

(2)目的

ア 争議行為は「団交のための圧力行為」であるから、争議行為の目的は団体交渉の目的事項、すなわち義務的団交事項に限定される。そして、義務的団交事項とは、組合員の労働条件その他待遇及び集団的労使関係に関するものであって、使用者が解決可能な事項をさす

イ ⅩはBの解雇に抗議してWに団体交渉を求めたが、Bは組合員ではない。よって、義務的団交事項に当たらないとも思える。しかしながら、直接的に組合員の労働条件でなくとも、組合員の労働条件に関連するものであれば、義務的団交事項に当たるといえる。

  Bはかつて組合に所属していたが、創業者である代表取締役Zに管理能力を買われて昇進し、管理職となったために非組合員となった。そうすると、今回のBに対する不合理な解雇を放置してしまえば、将来、管理職となる組合員も、創業者の一存で解雇されるという不安定な労働環境にさらされることとなる。よって、Bの解雇は組合員の労働条件に関連するものといえ、目的の正当性が認められる。

(3)手続き

ア 争議行為は団体交渉促進が目的であるので、団体交渉が先行している必要がある。また、公正な闘争が求められるので、争議行為を行う旨、事前に予告する必要がある

イ ⅩはWに団体交渉を行うよう求めたが、Wは拒否している。よって、団体交渉促進のための行為といえる。しかしながら、Ⅹらは、Wに団体交渉を拒否された後、予告をすることなく、直ちに罷業行為にはいっている。よって、事前の予告にかけるので、手続きの正当性は認められない

(4)態様

ア 争議行為は平和的説得の範囲内でのみ許され、使用者の営業の自由や財産権を侵害するような争議行為は正当性を欠く

イ Ⅹは、他のF支部組合員とともに罷業したが、他の組合員は、罷業について、本部が了解した方針であると誤信していた。Xは、あえて、本部から了承を得ていないことを伝えず、他の組合員に正当な争議行為であるかのように誤信させる行動をとった点で、その態様は正当性を欠く。

  罷業には製造ライン従業員の8割に当たる組合員15人が参加したため、F支工場の製造部門の操業は完全に停止した。その結果Y社は、生産予定であった全製品について納期を守ることができず、その後取引先から債務不履行責任と問われる事態となった。よって、使用者の営業の自由を侵害している。ただし、かかる損害は、罷業に伴い不可避的に生じる損害の為、この損害のみをもって正当性が欠けるとまでは言えない

  Ⅹは罷業を正当化させるため、本件投稿をしている。投稿の大部分は事実を誇張してY社を攻撃・中傷する過激なものであり、それがインターネット上で注目を集めた結果、拡散し、テレビでも取り上げられる事態となった。かかる投稿は名誉棄損罪(刑法230条)にも該当する行為であり、Y社に大きな損害をもたらす行為である。さらに、本社に抗議の電話が殺到することになり、Y社の業務を妨害することになった。以上から、態様の正当性を欠く

(4)よって、主体、手続き、態様の点で正当性を欠くので、正当な争議行為とは認められない。

4 違法な争議行為に対し、行われた本件解雇は有効か。

  Y社就業規則には懲戒解雇に関する定めがあるので、「使用者が労働者を懲戒することができる場合」といえる。また、本件行為は、規則59条各号で定める懲戒事由に該当し、Y社に損害が生じているので企業秩序侵害性もある。よって、「客観的に合理的な理由」がある

  では、「社会通念上相当」であると認められるか

 確かに、本件行為は違法な争議行為であった。しかしながら、争議行為の発端は、Y社が危険なM社製機械を使用し続けていることに対する抗議として行われたものである。Wは、B、Ⅹらが真摯にM社製の機会の撤廃を求めていたにも関わらず、全く相手にせず、不誠実な対応し続けた。そうすると、争議行為がおこった原因は、使用者の態度に原因があるといえる。にもかかわらず、労働者を解雇するのは、社会通念上相当とはいえない。よって、解雇は無効である(労契法15条)

 

以上

 

【感想】

 典型的な争議行為の問題と思われる。まず、凡ミスとして労組法7条①の当てはめをしなかった。普段なら絶対にしないミスなのになんで本番では訳の分からないミスをするのだろう。点数的には、そこまで響かないと思うけど。

一番悩んだのは、投稿行為を争議行為にするか、組合活動にするかという点。通常であれば、会社批判の投稿は組合活動の正当性で書くのが筋だと思うが、今回は、争議行為期間中に、かつ「世論を味方に付けるため」とあったので、自分は争議行為として、罷業と一緒に争議行為の正当性で論じた。組合活動として別に論じたら、どう考えても時間と紙面が足りなくなっていたので、これでよかったと思っている。

争議行為自体は違法とするが、最終的な解雇は無効とした。これは正解筋だと思う。全体的に労働法の出来の感触は悪くなかった。