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令和3年司法試験再現答案 行政法

設問1

小問(1)

1 本件不選定決定は、「処分」(行政事件訴訟法(以下省略)3Ⅱ)に当たるか。

2 「処分」とは公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、直接国民の権利義務を形成し、またはその範囲を確定することが法律上認められる処分をいう。具体的には、①公権力性②法的効果性③紛争の成熟性の点から判断する。

3 ア 屋台営業許可の選定は、屋台営業候補者として申請した者から(規則18条)市長が最適な者を一方的に決定する。よって、公権力性が認められる。(①)

  イ もっとも、本件不選定決定により、屋台営業候補者として選定されなくとも、直ちに、屋台営業を行えなくなるわけではない。そこで、法的効果性が認められないのではないか。
 まず、道路上で屋台営業を行うためには、道路占用許可を得る必要がある。(法32条第6号)そして、屋台営業の占有許可を申請できる者は、許可受者の親族等か、屋台営業候補者として選定された者に限られる。(条例9条第1項(2)、同25条、26条)そうすると、屋台営業候補者として選定されなければ、道路占用許可申請をすることができず、ひいては、占用許可を受けることもできなくなる。従って、本件不選定決定は、道路占用許可を適法に申請できる地位を奪うという法的効果を有するといえる。よって、屋台営業候補者の選定を受けようとする申請は、適法な道路占用許可申請権者の地位を取得すという利益を求める行為であり、(行政手続法2条第3号)不選定決定は、かかる利益を得ることを拒否する、申請拒否処分に当たる。以上から、本件不選定決定は法的効果性が認められる。(②)

  ウ 屋台営業候補者として選定されなければ、道路占用許可の適法な申請者となることができず、占用許可申請は確実に不許可となる。道路占用許可が確実に不許可となるのが分かっているにもかかわらず、道路占用許可の不許可処分までXが争えないとするのは不合理である。よって、紛争の成熟性も認められる(③)

4 本件不選定決定は「処分」に当たる。

 

小問(2)

1 本件不選定決定について、訴えの利益(9条1項括弧書き)が認められるか。

2 訴えの利益とは、処分を取り消す必要性をいい、具体的には、原告の請求が認容された

場合に、原告の具体的利益が客観的に回復可能であることである。この点、本件区画は、本件候補者決定により、Ⅽが候補者として選定されている。各区画は、申請者のうち1名しか選定されないので、仮に、本件不選定決定が取り消されたとしても、Ⅽが候補者として選定されている以上、Bが候補者に選定される余地はなく、訴えの利益が欠けるのではないか

3 複数の候補者から1名を選定する場合、選定者は候補者同士を比較しながら、最適な者を決定する。そうすると、候補者は相互に一体不可分の関係にあるといえる。Bに対する不許可処分が取り消された場合、行政庁は判決の趣旨に従い、再度Bの申請を審査することとなる(32条2項)。BとCは一体不可分の関係にある以上、Bの再審査を行う際は、Cについても併せて審査する必要があり、その結果、Ⅽではなく、Bが最適であるとして、候補者に選定される余地がある。よって、Bが本件区画の屋台営業候補者に選定される余地がある以上、訴えの利益が認められる。

 

設問2

1 本件不選定決定は、裁量の逸脱、濫用であるので違法であると主張する(30条)

2 屋台候補者の選定(条例26条1項)に裁量が認められるか。

(1)条例26条1項では、屋台営業候補者を「選定する」とある。選定とは、複数の候補者から最適な者を決定する行為であり、決定権者に裁量があることが当然の前提である。よって、条文の文言上、裁量(要件裁量)が認められる。

(2)屋台営業候補者として誰を選定するかは、候補者の営業内容、営業場所周辺との調和の有無、観光行政、道路行政上の可否等、専門技術的な判断が必要である。よって、処分の性質上も裁量が認められる。

 よって、屋台候補者の選定は裁量が認められる。

3 裁量がある行為であっても、行政庁の判断の結果及び過程について、重要な事実誤認があるか又は社会観念上著しく妥当性を欠く場合、裁量の逸脱、濫用として違法となる。(30条)

4 市長は、他人名義営業者に対しては、6か月間の暫定猶予を認めただけで、それ以上に法的保護を与えていない。そこで、従来営業を続けてきた他人名義営業者への配慮に欠け、考慮不尽とならないか。他人名義営業者に対する法的保護の必要性が問題となる。

(1)A市としては、道路占用許可は行政上の特許であり、譲渡の対象には当たらないので、他人名義営業者は無許可で営業を行っている者と変わらないこと、許可が売買の対象となったり、営業者の頻繁な交代により屋台をめぐる諸問題の解決に向けた継続的な話し合いが難しくなるなど、行政運営上、支障が生じていることなどから、法的保護の必要性はないと反論する。

(2)しかしながら、A市の市道上の屋台はA市の重要な観光資源となっているほか、街に賑わいや防犯効果をもたらしている。たとえ、適法な手続きを得ていなかっとしても、長年屋台を営み、A市の観光や賑わい創出に寄与してきた無許可営業者のこれまでの功績は評価に値するものである。

また、道路占用許可の許可基準においては、占用の対象や位置が道路管理上支障がないか否かが重視されており、誰が占有者となるかについては、重視されていない。(法32条、33条)

さらに、他人名義営業者は、屋台営業を生業として生活している者が多く、施行後の6か月間で新たな店舗や仕事を探すことは困難である。したがって、他人名義営業者の生活を保護するという見地からも、法的保護の必要性がある。

よって、他人名義営業者の地位は法的保護に値し、これを考慮していない本件不選定決定は考慮不尽がある。

5 市長は委員会の申し合わせに基づく点数を差し引いて、屋台営業候補者を選定した。そこで、委員会の申し合わせは合理的であるといえるか。仮に合理的でない場合は、市長が申し合わせの点数を差し引いたことは何ら問題でなく、裁量の逸脱、濫用にも当たらない

(1)A市としては、委員会の申し合わせは市長の公約に反すること、また、新規参入を望むものと不公平になるので、申し合わせは不合理であると反論する

(2)しかしながら、前述のとおり、長年、屋台を営業し、地域の発展に寄与してきたという実績は評価に値するものであり、条例19条(1)~(4)の取り組みの具体的な実績として評価の対象とすることは何ら問題とはいえない。また、申し合わせでは、「A市との間でトラブルのなかった」者という留保をつけているので、行政運営上の支障が継続するようなことはない。さらに、加点は25点のうち、5点だけなので、新規参入者の申請内容次第では、既存業者に逆転できる可能性も大いに残されているといえる。よって、新規参入者の利益を不当に制限する不公平な内容ともいえない。
 よって、申し合わせは不合理とはいえない。にもかかわらず、市長は、自身の公約を実現したいという一方的な理由だけで、委員会の申し合わせを無視し、選定を行ったので、評価に対する明白な合理性の欠如があるといえる。

6 以上から、本件不選定決定は社会通念上著しく妥当性を欠くので、裁量の逸脱、濫用に当たり、違法である。

7 市長が委員会の決定を覆して選定をしたこと自体が、手続きの瑕疵に当たり、違法ではないか。

(1)A市としては、委員会の推薦はあくまでも市長が選定を行う際の一判断材料に過ぎず、最終的な決定権が市長にある以上、委員会の推薦を覆しても問題はないと反論する

(2)しかしながら、条例があえて委員会に諮問することを求めたのは、公平な第三者機関を関与させることで、選定の公平性、透明性を確保し、もって市長の専断を防止する点にある。かかる趣旨に基づけば、市長は、委員会の推薦が著しく不合理であるなどの特段の事情がない限り、委員会の推薦を覆すことは許されないと解する。
 前述のとおり、委員会の申し合わせは合理的であり、その他、Bを推薦するにあたって著しく不合理な事情はない。他方、市長は、屋台営業の刷新という公約を実現したいという一方的な理由のみで、委員会の決定を覆した。よって、特段の事情はないので、市長の決定は違法である。

(3)そして、行政の安定と手続きの公平性の見地から、重大な手続き違反のみが、取消事由となる。委員会への諮問、推薦は条例で定められており、屋台営業候補者の選定の中心となる重要な手続きである。よって、かかる手続き違反は重大な違反といえ、取消事由に当たる。よって、本件不選定は違法となる。

 

以上

 

【感想】

問題文で道路占用とでてきた瞬間、心の中でガッツポーズをした。なぜならば、自分は、道路占用係にいたことがあり、道路占用を熟知しているからだ。正直、道路占用、道路法については、今回受験した受験生の中で一番詳しいという自負がある。

 とはいったものの、問題の中心は、屋台条例の話なので、自分の知識が有利になったかといえば、ほとんど関係はなかった。

設問1小問(1)は処分性の話。処分性苦手なんだよなー。試験直前に、少し話題となっていた橋本先生のブログで処分性の勉強をしてかなり役立った。これを読んでいなかったら、もっとひどい答案になっていたと思う。

小問(2)は、放送免許の判例の話。もちろんこの判例は知っていたが、これって処分性の話じゃなかったっけ?と思いながら、表裏一体というキーワードを思い出しつつ、現場でそれらしきことを書いてみた。

設問2 問題文を読んだ感想は、書くこと多すぎ!バカかよ。自分は結局解けなかったが、昨年の行政法の問題は内容が多すぎて書ききれないと聞いていたので、今回もそのパターンやな。最後まで書ききれるかが勝負だと、とにかく最後まで書き終えることを優先した。そのため、答案構成も設問2は殆どしていない。一応、最後の手続きの違法まで書いたが、最後の判例は知らなかった。これは、みんな知らないよね?ということで、規範をでっち上げて適当に書いて、ちょうどタイムアップ。感触としては、そこそこできたかなと。

あと、どうでもよいが、道路占用を道路「占有」と間違えて書いている人が絶対いると思う。自分も最初の方、全部「占有」にしていて途中で気が付いた。道路占用係で良かった。

令和3年司法試験再現答案 憲法

第1 規制①について

1 規制①は、憲法(以下省略)21条1項に反し、違憲ではないか。

2 憲法上の権利の保障とその制約

 21条1項は集会の自由を保障しているところ、デモ(集団行動)は、動く集会として、21条1項により保障される。

これに対し、規制①は、デモを行うこと自体を規制するわけではないので、制約に当たらないという反論が考えられる。しかしながら、顔を隠すことで気兼ねなくデモに参加できると感じる者にとって、規制①は、参加をちゅうちょさせることになるので、権利の制約に当たる。

3 審査基準

 集会の自由は、参加者が意見や情報を受領し、表明する手段として極めて有効である。一人では表現、発信できないことであっても、集団になることで、初めて表現できることも多い。そのため、集会の自由に対する制約は慎重に判断すべきである。

これに対し、規制①は、顔を隠しデモに参加するという、表現方法に着目した規制であるため、表現内容に着目した規制に比べ制約の度合いが弱く、緩やかに審査すべきという反論が考えられる。(内容中立規制)しかしながら、顔を隠しながら、デモに参加したいものにとって、規制①は、デモに参加する機会をはく奪するほどの重大な制約であり、表現活動自体を困難にさせるものといえる。したがって、制約の度合いが弱いとはいえないので、反論は妥当でない。

さらに、顔を隠しながらデモに参加すること自体を禁じる点で、事前規制に類似するといえ、萎縮的効果も生じる。よって、制約の度合いが強い。

以上から、重要な権利に対して、制約の度合いが強いので、厳しめの審査基準が妥当する。したがって、①目的が重要で、②目的と手段との間に実質的関連性がある場合に初めて合憲となる。

4 具体的検討

(1)目的

規制①の目的は、集団行動における公共の安全を害する行為を抑止し、もって公共の安全の確保に寄与することである。公共の安全を確保することは国民にとって重要な目的である。(25Ⅱ)

(2)手段

ア 適合性

 デモの最中に行われた暴力行為について、参加者が顔を隠しているため、被疑者の特定が困難となり、逮捕できないという事態が生じていた。したがって、規制①により、被疑者の特定、逮捕が容易となり、ひいては、公共の安全確保につながる。また、覆面や仮面で顔を隠すことによって、誰がやっているかわからないという感覚が生じて、普段はしないような行動に者がいる。そのような者にとって、規制①は、違法行為を抑止することになるので、目的との間に適合性がある。

イ 必要性

 これに対し、違法行為に対しては警察力をもって対処すべきであり、デモ参加者の自由を制限するのは必要性に欠けるという反論が考えられる。しかしながら、デモにおける暴力行為は集団心理が働き、一瞬で暴徒化する性質がある。そのような場面においては、破壊行為や放火行為が乱発し、警察力では対応できない場合がある。また、多数の人ごみの

中から、被疑者を発見するのは容易ではないので、規制①のように、集団行動の方法を一定程度制約する必要性はある。

ウ 相当性

 確かに、各地の大規模なデモで暴力行為、違法行為が行われたのは事実である。しかしながら、デモに参加した多くの人は、平穏に活動を行っていた。欧米諸国と比べ、我が国でデモ活動が盛んに行われない理由は、デモ活動に対する偏見や誤解が存在するからである。そうした中、顔を隠しデモに参加することは、本来、デモに参加したいにも関わらず、躊躇していたひとにとって、極めて重要な参加方法であり、規制①は、そのような意向を持つ人のデモに参加する機会をはく奪するに等しい、極めて重大な制約である。そして、規制①に反した場合、第3の2により、罰則を受けるなど、規制対応も厳しい。

 以上から、規制①は、得られる利益に比べ、失われる利益が大きいので、相当性を欠く。5 よって規制①は違憲である。

 

第2 規制②について

1 規制②は、憲法(以下省略)21条1項に反し、違憲ではないか。

2 憲法上の権利の保障とその制約

21条1項は、表現活動を制限されることだけでなく、表現行為を強制されない、消極的表現の自由も保証されている。これに対し、規制②は、表現活動ではなく、単なる事実の報告なので、21条で保障されないという反論が考えられる。しかしながら、表現活動を行うには、社会的事実の提供が不可欠なので、単なる事実も表現の自由の保護対象となる。また、団体の機関紙等には、団体の政治的思想が含まれているので、表現の自由の保護対象に当たる。

他方で、報告する内容は既に団体がSNS等で公表している情報なので、これを報告することは消極的自由の制約に当たらないという反論が考えられる。しかしながら、団体の情報を行政に握られると、表現活動の萎縮的効果が生じるので、制約があるといえる。

3 審査基準

  前述のとおり、集団として表現活動を行う集会の自由は重要であるので、団体の表現の自由も重要な権利として保護される。

  また、第4の4の通り報告義務に反すれば、罰則があり規制態様も厳しいとも思える。しかしながら、規制②の内容は団体の既出の情報を報告させるものであり、表現活動自体を困難にさせるものではない。よって、制約の態様は強いとはいえない。そこで、審査基準を若干緩和して、①目的が重要で、②目的と手段との間に実質的関連性がある場合に初めて合憲となる。

4 具体的検討

(1)目的

目的は規制①と同じく公共の安全であり、重要である

(2)手段

ア 適合性

  規制②により、行政が団体の情報をSNS等で事前に把握できれば、デモに伴う暴力行為や違法行為に対し、事前に準備ができ、適切な対応を取ることが可能となる。特に、対象となる団体は、SNS等で参加を呼びかけ、仲間を募っているので、団体のウェブサイト、SNS等の情報を集めておくことは、公共の安全確保という目的との点で適合する。

イ 必要性

  これに対し、警察の公安活動により危険な団体の情報を把握すれば足りるので、必要性に欠けるという反論が考えられる。しかしながら、対象となる団体は構成員がおおむね50人から100人程度の比較的規模が小さい団体であり、このような小規模な団体の情報を公安活動により網羅的に把握するのは困難である。よって、規制②のとおり、事前に情報を提出させる必要性が認められる。

ウ 相当性

  他の団体の規制に関する既存の立法に比べると、規制②で対象とされる「公共の安全を害する行為を助長している団体」の危険性はさほど大きくないので、制約の程度が相当性を欠くとも思える。しかしながら、対象となる団体は、SNS等でデモの暴力行為を誘発させる行為を行っており、団体の危険性とは別に、行為の危険性を検討する必要がある。

  さらに、「公共の安全を害する行為を助長している団体」として対象となる団体は、過去5年以内にデモに際し犯罪行為を行って処罰された者が10%以上所属する団体である。所属する10%以上の者が過去に犯罪で処罰された団体であれば、再度、デモの際に犯罪行為を行う蓋然性が高いといえるので、第2の3の指定は相当といえる。

  また、報告を義務付けられる情報も、団体が既に公開し、誰もが見ることができる情報である。そして、氏名や住所などの個人情報は含まれないので、団体としての制約の程度は、そこまで大きいものではない。

  以上から、制約の程度は大きくなく、他方で得られる利益は大きいので、相当性がある。

5 よって、規制②は合憲である。

 

 

【感想】

 難しいの一言。全科目の中で憲法が一番自信ない。というより、自分自身、憲法の書き方、特に違憲審査基準の立て方とか全然理解できていないのを痛感した。正直、何を書いたのかも分からず、再現答案の作成も非常に時間がかかった。

次回の試験があるとしたら、憲法は最優先でなんとかしないといけない。問題文を読んだ直感として、規制①は違憲、規制②は合憲だと思った。他の受験生もおそらく、結論は同じではないか。

Twitterで、チラッと規制②は13条プライバシー権の侵害だと書かれていたが、試験中は、全くそんなこと気づけなかった。再現答案を作っているときでさえ、13条でどう書けばよいのか分からない。

本当に憲法嫌い。どうしたらできるようになるの?

 

令和3年司法試験再現答案 [労働法 第2問] 

1 Ⅹに対する懲戒解雇は有効か。

2 本件解雇は、Ⅹが主導した罷業行為及び会社に対する誹謗中傷の投稿に対してなされた。仮に、かかる行為が、正当な行為であると認められれば、「客観的に合理的な理由」(労契法15条)を欠くとして、無効になるとも思える(労働組合法(以下省略)8条参照)そこで、本件罷業及び投稿(以下、本件行為)が正当な行為にあたるかが問題となる。

3 争議行為とは、団体交渉促進のために行われる、労務不提供を中心とした圧力行為、及びこれに付随する行為をいう。本件罷業は、Wの団体交渉拒否に対する抗議として行われた。また、投稿行為は、罷業を正当化する為に行われたので、付随行為といえる。よって、本件行為は争議行為にあたる。では、正当な争議行為と言えるか。①主体、②目的、③手続、④態様から判断される。

(1)主体

ア 団体交渉の主体は、労働組合(2条)である。Xは本部の了承を得ないまま、本件行為を行っているので、労働組合の行為といえず、主体の正当性を欠くのではないか

イ 確かに、Ⅹにとってみれば、交渉が長期化すれば不当な前例が既成事実化し、F支工場の組合員の労働条件が悪化するという懸念があった。しかしながら、各組合支部は、工場側と折衝することは認められていたものの、団体交渉をしたり、労働協約を締結したりする権限はなかった。そして、組合本部のP書記長は、時期尚早であると、Xの計画を認めなかった。労使交渉は、使用者と組合が対等な関係に基づき行われるものであるところ、労働組合の意思に基づかない、組合員の争議行為を認めてしてしまうと、労使間の信頼が損なわれ、7条の趣旨が没却される。よって、主体の正当性を欠く

(2)目的

ア 争議行為は「団交のための圧力行為」であるから、争議行為の目的は団体交渉の目的事項、すなわち義務的団交事項に限定される。そして、義務的団交事項とは、組合員の労働条件その他待遇及び集団的労使関係に関するものであって、使用者が解決可能な事項をさす

イ ⅩはBの解雇に抗議してWに団体交渉を求めたが、Bは組合員ではない。よって、義務的団交事項に当たらないとも思える。しかしながら、直接的に組合員の労働条件でなくとも、組合員の労働条件に関連するものであれば、義務的団交事項に当たるといえる。

  Bはかつて組合に所属していたが、創業者である代表取締役Zに管理能力を買われて昇進し、管理職となったために非組合員となった。そうすると、今回のBに対する不合理な解雇を放置してしまえば、将来、管理職となる組合員も、創業者の一存で解雇されるという不安定な労働環境にさらされることとなる。よって、Bの解雇は組合員の労働条件に関連するものといえ、目的の正当性が認められる。

(3)手続き

ア 争議行為は団体交渉促進が目的であるので、団体交渉が先行している必要がある。また、公正な闘争が求められるので、争議行為を行う旨、事前に予告する必要がある

イ ⅩはWに団体交渉を行うよう求めたが、Wは拒否している。よって、団体交渉促進のための行為といえる。しかしながら、Ⅹらは、Wに団体交渉を拒否された後、予告をすることなく、直ちに罷業行為にはいっている。よって、事前の予告にかけるので、手続きの正当性は認められない

(4)態様

ア 争議行為は平和的説得の範囲内でのみ許され、使用者の営業の自由や財産権を侵害するような争議行為は正当性を欠く

イ Ⅹは、他のF支部組合員とともに罷業したが、他の組合員は、罷業について、本部が了解した方針であると誤信していた。Xは、あえて、本部から了承を得ていないことを伝えず、他の組合員に正当な争議行為であるかのように誤信させる行動をとった点で、その態様は正当性を欠く。

  罷業には製造ライン従業員の8割に当たる組合員15人が参加したため、F支工場の製造部門の操業は完全に停止した。その結果Y社は、生産予定であった全製品について納期を守ることができず、その後取引先から債務不履行責任と問われる事態となった。よって、使用者の営業の自由を侵害している。ただし、かかる損害は、罷業に伴い不可避的に生じる損害の為、この損害のみをもって正当性が欠けるとまでは言えない

  Ⅹは罷業を正当化させるため、本件投稿をしている。投稿の大部分は事実を誇張してY社を攻撃・中傷する過激なものであり、それがインターネット上で注目を集めた結果、拡散し、テレビでも取り上げられる事態となった。かかる投稿は名誉棄損罪(刑法230条)にも該当する行為であり、Y社に大きな損害をもたらす行為である。さらに、本社に抗議の電話が殺到することになり、Y社の業務を妨害することになった。以上から、態様の正当性を欠く

(4)よって、主体、手続き、態様の点で正当性を欠くので、正当な争議行為とは認められない。

4 違法な争議行為に対し、行われた本件解雇は有効か。

  Y社就業規則には懲戒解雇に関する定めがあるので、「使用者が労働者を懲戒することができる場合」といえる。また、本件行為は、規則59条各号で定める懲戒事由に該当し、Y社に損害が生じているので企業秩序侵害性もある。よって、「客観的に合理的な理由」がある

  では、「社会通念上相当」であると認められるか

 確かに、本件行為は違法な争議行為であった。しかしながら、争議行為の発端は、Y社が危険なM社製機械を使用し続けていることに対する抗議として行われたものである。Wは、B、Ⅹらが真摯にM社製の機会の撤廃を求めていたにも関わらず、全く相手にせず、不誠実な対応し続けた。そうすると、争議行為がおこった原因は、使用者の態度に原因があるといえる。にもかかわらず、労働者を解雇するのは、社会通念上相当とはいえない。よって、解雇は無効である(労契法15条)

 

以上

 

【感想】

 典型的な争議行為の問題と思われる。まず、凡ミスとして労組法7条①の当てはめをしなかった。普段なら絶対にしないミスなのになんで本番では訳の分からないミスをするのだろう。点数的には、そこまで響かないと思うけど。

一番悩んだのは、投稿行為を争議行為にするか、組合活動にするかという点。通常であれば、会社批判の投稿は組合活動の正当性で書くのが筋だと思うが、今回は、争議行為期間中に、かつ「世論を味方に付けるため」とあったので、自分は争議行為として、罷業と一緒に争議行為の正当性で論じた。組合活動として別に論じたら、どう考えても時間と紙面が足りなくなっていたので、これでよかったと思っている。

争議行為自体は違法とするが、最終的な解雇は無効とした。これは正解筋だと思う。全体的に労働法の出来の感触は悪くなかった。

令和3年司法試験再現答案 [労働法 第1問] 

設問1

1 本件出勤停止処分は労働契約法(以下省略)15条に反し、無効ではないか

2 使用者は企業経営上の必要性から、企業秩序維持定立権を有する。もっとも、懲戒処分は一種の制裁罰であるから、罪刑法定主義類似の要請から就業規則等の合意とその周知が必要である。Y社では、就業規則は制定されていないが、労働者と個別に労働契約書を締結しており、同契約書18条で懲戒処分に関する定めが設けられているので、合意と周知がある。よって、「懲戒することができる場合」に当たる。

3 (1)本件出席停止処分には、懲戒処分を行える「客観的に合理的な理由」があるか。就業規則上の懲戒事由該当性により審査される。そして、懲戒事由の実質的根拠は企業秩序維持の要請にあるので、懲戒事由該当性が肯定されるためには、懲戒事由に形式的に該当するだけでなく、企業秩序侵害性が必要となる。

  (2)X1の行為は、労働契約書18条3項4項に当たる。また、Y社は有料職業紹介事業を営んでいるところ、事業の性質上、求職者との信頼関係は極めて重要である。そうすると、媒体を紛失し、求職者の個人情報を紛失させたX1の行為は、Y社の信用・評判を失わせ、深刻な損害を行為である。よって、企業秩序侵害性がある

4 (1)「社会通念上相当である」といえるか。㋐労働者の行為と懲戒処分の内容に均衡があるか㋑適正手続きがなされたかで判断する。

(2)ア Y1社はX1に弁明の機会を与えることなく、本件処分をしている。よって、㋑を欠く

イ まず、出勤停止中は、無給となるのでX1にとって不利益が大きい。他方、X1が媒体を自宅に持ち帰ったのは、時間外・休日労働の時間数が1か月あたり60時間を超えるような過重労働が課されている中、Aから、午後8時以降は会社内で勤務しないように通告を受けたためである。よって、大きく非難できるものではない。また、うたた寝をしてしまったのも、連日の過重労働により、心身が疲弊していたせいである。さらに、X1は、媒体を紛失後、事実を隠ぺいすることなく、直ちに経緯を説明し、被害拡大の防止に努めた。事故発生後の対応としては問題がない。また、Y社は、個人情報の持ち出しを原則禁止するのであれば、単に上司の許可を得るだけでなく、物理的に個人情報を持ち出せない等の仕組みを整備すべきであった。よってY社にとっても落ち度がある。
 以上からすると、Ⅹ1の行為は情状酌量の余地があるにもかかわらず、出勤停止処分という思い処分を科している点で、㋐を欠く

5 よって、本件出席停止処分は無効である

 

設問2

1 「過失」あるⅩ1の行為に「よって」、Y社は賠償金48万円を求職者に支払うこととなった。従って、Y社の営業の利益という、「法律上保護される利益」が「侵害」された。よって、Y社はⅩ1に民法709条に基づき損害賠償請求権を有する。

2 もっとも、Y社は損害額48万円全額をⅩ1に求償している。そこで、全額求償することが許されるか(同法715条3項)

(1)報償責任・危険責任の趣旨から、使用者の被用者に対する求償は,信義則上(同法1条2項)相当な範囲に限定される。そして、その範囲は、①労働者の帰責性②損害発生に対する使用者の寄与度等を総合的に判断して算出する

(2)ア 確かに、Ⅹ1は上司の許可を得ずに媒体を持ち帰り、紛失するという違反を犯している。また、これにより、Y社に損害が生じている。もっとも、上記の通り、X1が媒体を持ち帰ったのは仕事が就業時間内に終わらないとい事情があったためであり、大きく非難はできない。

   イ 上記の通り、Y社は個人情報を物理的に持ち出せないよう、整備をするべきであった。また、自宅に仕事を持ち帰らざるを得なくなるような業務量をⅩ1に課しているいる点でY社にも事故発生の責任がある

(3)よって、Y社の求償額は信義則上限定され、48万円全額をⅩ1に求償することはできない。

 

設問3

1 AはⅩ2、Ⅹ3に対し、30日間の予告期間をおいて解雇している。よって、労働基準法20条1項には反しない。もっとも、本件解雇は16条に反し、無効とらないか。

2 解雇を行うには、解雇事由該当性が必要であるところ、Y社に就業規則はなく、また、労働契約書には解雇に関する定めはない。そこで、労働者が解雇することについて合意(3条1項)があった場合に限り、使用者は解雇できると解する。
 Y社は労働者全員が出席する朝礼の場で、経営方針にそぐわない2名を解雇する旨説明し、Ⅹ2らを含め特段意見や質問はなかった。かかる労働者の対応によって、解雇されることに合意したとも思える。
 しかしながら、解雇は労働者の雇用を喪失させる重大な行為である。よって、解雇への同意は明確な意思表示があって、初めて認められる。X2らは上記の方針に対して、沈黙していただけで、明示的に同意したわけではない。よって、解雇について同意があったとはいえない。

3 仮にX2らの同意が有効であったとしても、「客観的に合理的な理由」があるか

(1)解雇は労働者に雇用の喪失という重大な不利益をもたらすものであるから、最後の手段としてのみ許容される。そこで、①労働者の解雇事由が重大で、是正の余地がないこと。②使用者が解雇回避努力を尽くしたことが必要である。

(2)ア Ⅹ2らは「会社の~人材」という方針に照らし、会社への協調性や柔軟性を欠いていると評価を受けたため、解雇対象となった。しかしながら、協調性や柔軟性の欠如は是正の余地があり、直ちに解雇をしなければならないほどの重大な帰責事項には当たらない 

  イ 確かに、Y社は、売り上げが3年連続で低下し、労働者6人を雇用し続けることが難しい状況となっていた。しかしながら、解雇という手段を取る前に、賃金カットや経費削減などが可能であり、解雇回避努力をつくしたといえない

4 よって、解雇は無効である。

 

以上

 

【感想】

記念すべき、司法試験一発目の論文。一番最初の論文なので、ここで躓くと後に引きずることが容易に想像できたので、本当に緊張した。

第1問は難易度としてはそこまで高くないと思う。設問1は、典型的な懲戒処分の問題。ただ、気がかりなのは、答案構成に「出勤停止」ではなく、「出席停止」と書いていたこと。答案では、ちゃんと、出勤停止と書いていたことを願うが、全部「出席」にしちゃっていたかも。本当にバカ。こういう書き間違いって、減点になるのかな。

設問2は、715Ⅰの当てはめを忘れた。たぶん、ここも点数があったと思う。問題文の「損害賠償請求」は認められるか、というところに引っ張られ、709だけ書いて、715Ⅲに流してしまった。

設問3は、名に書けばいいのかよくわからん。とりあえず、普通解雇の論証を書いたが、正解筋は全然違うかも。

 あと、労働法は紙面が足りなかった。もう少し、小さな字で書いておくべきだと反省。

予備試験 論文結果

今更だけど、予備試験論文の成績を公開します。ギリギリの442位で通りました。

昨年の論文試験の合格最低ラインを知るには、有益だと思います。

 

もちろん、再現答案なので、お化粧がされています。本番で書いた論証や当てはめは、もっとめちゃくだし、細部の覚えていないところは、脳内補正してしまっている。大体実際に書いた答案の、5割り増しぐらいだと思っていただければ。

ただ、見栄をはって、書いてない論点を書いているということはないのでご安心を。

 

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予備試験を受けて 感想と自己採点

再現答案も書き終えたので、令和2年度の予備試験を簡単に振り返る。

 1.答案全体の出来

出来としては、大外しや大ミスはしていない。全く分からない科目や、途中答案も無かった。終わった後の手ごたえは、かなり良かったので、合格の2文字がよぎったが、再現答案を作る中で、結構凡ミスしているのに気付いた。刑事実務の伝聞証拠と民訴の設問1は、落ち着いて解けば分かったのにミスしたので、超くやしい。正直、感触は悪くないが、今年は受かっていないと思う。でも可能性がないわけではないので、来年の合格発表を楽しみに待つとします。

2.自己採点

憲法 B

行政法 B

民法 D

④商法 C

民事訴訟法 C

⑥刑法 B

刑事訴訟法 A

⑧民事実務基礎科目 A

⑨刑事実務基礎科目 C

⑩一般教養 E

 

自己採点をネットにさらすのは恥ずかしけど、自己評価と実際の採点結果のズレを認識するのは大事なので採点してみた。てか、この評価だと合格してしまうが、自分の率直な実感としてはこんな感じ。よくできたのは、行政法、刑訴、民実、悪かったのは、民事系3科目と一般教養、その他は普通かな。総合順位としては、3桁には入っている自信がある。2年前、論文はほぼ無勉強で、ほぼ何も書けなかったという状態で1900番台だったが、今回は当時とは比べ物にならないほど書けた。むしろ、これで順位が下位だったら、相当な勉強方法の修正が必要となる。

 

3.今後の勉強

 今後の勉強方針だが、まずは、口述の勉強を開始する。まずは、出題形式から、勉強方法などをネットを中心に情報収集する。あとは、基本的にはこれまでの勉強とは変わらないのかな。伊藤塾の答練を受け、さらに、演習書でひたすら問題を解く。あと、今回受けて実感したのが、論証や定義の重要性。これは、再度ブラッシュアップが必要だと認識したので、毎日Anki(単語帳カード)で100問を目標に見直す。

 一番悩ましいのが、選択科目。不合格の場合、無駄となってしまうが、かと言って、仮に合格していたら、1月から選択科目を勉強して、5月の司法試験に間に合うのか?しかも、再来年から予備の論文でも選択科目が導入されるので、とりあえず、勉強初めてもいい気もする。選択科目は労働法を選択する予定。とりあえず、年内は、モチベーションが下がったら、労働法の勉強をすることにする。

 

4.予備試験論文式試験を終えて

最後に、今回の論文試験は、本当にいい経験だった。2日間は死ぬほど辛かったが、終わった後の解放感と充実感は、これまで味わったことのない感覚だった。そして、一番うれしかったのが、自分の実力が上がったこと。2年前、記念受験で論文試験を受けたが、その時とは、比べ物にならないほどよく書けた。当時の自分と比べ、法律に関する知識や文章力は格段にあがっていた。この2年間、毎日頑張って勉強した成果をありありと感じることが出来たので、それは、本当に嬉しかった。日々、毎日を過ごしていると、自分の成長を感じられるというのは、なかなか無いので、今回の試験は自分の成長を感じられたという点で、本当にいい経験だった。

あと、予備試験は、頑張れば全然手が届く試験だと再認識した。とにかく、頑張ろう。自分も30代になり、決して若くない。昨年、結婚して、これから子供もできるかもしれない。そうしたら今までと同じように勉強ができるとは思えない。もう、ゆっくり悠長に勉強してられる状況ではない。とにかく、毎日必死に全力で勉強しよう。そして、絶対に予備試験、司法試験に合格してやる。

 

 そして、来年受験する方にアドバイス。まず、TOCはパイプ椅子で長時間座るのはきついです。なので、座布団をもっていきましょう。特に腰痛持ちの方!今回、座布団をもっていき、本当に良かった。そして、再現答案を作る方は、再現答案を作る前に、解答速報とか見ない方がいいです。なぜなら、自分の答案が解答例と違っていた場合、作るモチベーションが下がるので。今回は自分もその口でした。途中で作るの嫌になります。

 

 

 

 

令和2年予備試験 再現答案⑩ 民法

設問1

1 BはAの代理人として本件消費貸借契約を締結したが、実際には代理権が授与されておらず、無権代理民法(以下省略)113条)であった。そのため、本件賃貸借契約は無効であり、Aは、賃貸借契約に基づく返還義務として貸金の返還を請求する必要はないとも思える。

2 しかしながら、Aは、令和2年4月10日に意識不明の状態となり、20日に本件賃貸借契約がされ、その翌日に後見開始の審判がなされた。そうすると、20日の時点で、既にAは被後見人の要件を満たしていた。そして、後見人は、被後見人の財産処分を代理できる。(859条)そこで、859条を類推適用して、Bの契約が有効とであると解せないか。
 この点、859条は、取引の安全と、被後見人の利益保護の調和の見地から、後見開始を裁判所の審判にからしめた。そうすると、後見開始は、裁判所の審判があって、初めて開始されると解する。これは、838条1項2号「後見開始の審判があったときに」「開始する」とあることからも明らかである。
 よって、859条の類推適用は認められない。

3 そうだとしても、Bは、無権代理人として、本件賃貸借契約を締結した以上、後見人の立場として、契約を拒絶することは信義則上許されず、その結果、追認(113条)が擬制され、契約は有効になるのではないか。
 この点、後見人は被後見人の財産を管理する公的な立場を有し、また、被後見人の財産管理について善管注意義務を負っている。従って、後見人は、被後見人の財産的利益を第一に考えて行動しなくてはならない。そうすると、例え、自身が無権代理人として行動したとしても、被後見人の利益の為、無権代理行為の追認を拒絶することは信義則に反しない。よって、追認は擬制されない。

4 以上から、本件賃貸借契約は有効とならず、従って、Cは貸金の返還を請求することは出来ない。

設問2

1 第1に債権者代位権(423条)により、本件売買契約を取り消すことが出来ないか

(1)Dは、Aに500万円を貸し付けているので、貸金の返還請求権という被保全債権を有する。そして、弁済期は令和5年4月末日であり、既に到来している(同条1項)

(2)本件不動産は3000万円の価値を有するが、Eは300万円を超えないと、言葉巧みにAをだまし、300万円で本件売買契約を締結した。よって、Aは詐欺に基づく取消権を有する。(96条1項)そして、被代位権利は、財産権に関する請求権をさし、取消権という形成権もこれに含まれる。よって、被代位権利が存在する。(同条1項)

(3)Aは、本件不動産以外にめぼしい財産が無く、無資力である。よって、「自己の債権を保存するため必要があるとき」に当たる(同条1項)

(4)被代位権利は一身専属に関する権利ではない。(同条1項)また、被保全債権債権は、強制執行により実現することができる(同条3項)

よって、Dは債権者代位権(423条)により、本件売買契約を取り消すことが出来る。

2 次に、詐害行為取消権により、本件売買契約を取り消せないか(424条1項)

  詐害行為取消権は、債務者が債権者を害することを知って、行為を行ったこと、すなわち詐害意思が必要である。しかしながら、AはEから騙されて、本件売買契約を締結したに過ぎず、Dへの債務を逃れる為に行った訳ではない。よって、詐害医師が認められないので、424条の詐害行為取消権は行使できない。

 

以上

 

  • 雑感

一番最後に解いた民法。正直、2通目の商法を書ききった時点で疲労困憊。時間は1時間15分くらい余っていたが、疲れすぎて、5分くらい目を閉じて休憩した。答練や模試では、3時間30分を経験済みだが、ガチンコの本番での3時間半は想像を絶する辛さ。人間は3時間30分も集中力が持たないことがよく分かった。脳が沸騰している感じでなにも考えられない状態が続いた。

 内容の方は、正直自信ない。設問1は、最初は、事務管理とか不当利得返還請求権で答案構成していたが、設問に「賃貸借契約に基づき」と書いてあったのに気づき、これはダメだと思い削除。結局、後見開始の類推適用という新しい論点を勝手に作ってしまったが、これはどうなんだろう?そして、これを書いている最中に、無権代理人と後見人の論証を思い出し、慌てて書いた。

 そして設問2、これ何を書けばよかったの?債権者代位と詐害行為取消権は普通に思いつくけど、この2つだけのはずがないと思い、必死に考えを巡らしたが、思いつか無かった。自分の中で民法は難しいというイメージが先行していたので、難しく考えすぎたのかもしれない。構成に時間を取られた分、論述はあまり良くできなかった感触。